IPA発表「デジタルスキル標準」が定義するマインド・スタンスの重要性

公開日:2023/1/24(火)

筆者:岸田努(株式会社ネットラーニング 代表取締役社長)

IPAにより公開された「デジタルスキル標準」

昨年12月末に経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)よりデジタルスキル標準新しいウィンドウで開くが公開されました。

この「デジタルスキル標準」では、以下の2種類を策定。

  1. 全てのビジネスパーソン対象の「DXリテラシー標準」
  2. DXを推進する人材の「DX推進スキル標準」

ビジネスパーソン一人ひとりがDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになることをねらいとしています。

企業において対象範囲が広い「DXリテラシー標準」に注目し、その構成をみると、以下のようになります。

Why(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の利活用)、マインド・スタンス(社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義)

デジタルスキル標準ver.1.0:15ページより

DXリテラシー標準として浸透しているマインド・スタンス

「DXリテラシー標準」の人材育成を実施するにあたりもっとも難しいのがマインド・スタンスではないでしょうか?上記Why、What、Howの部分は学習コンテンツも豊富にあり、多くの企業において教育・研修は比較的順調に進んでいますが、マインド・スタンスはIPAの発表資料においても、学習項目例は「各自が置かれた環境において目指すべき具体的な行動や影響例、等」(※)としており、他と比較してもかなり大まかな表現で記載されています。

しかしながら重要なのは、このマインド・スタンスがしっかりとDXリテラシー標準として浸透していることです。そうでなければ、いくらWhy(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の利活用)を学んでも、その効果は限定的になってしまうでしょう。

以下は、IPAの発表資料に掲載されている、マインド・スタンスの学習項目例です。

変化への適応
  • 環境や仕事・働き方の変化を受け入れ、適応するために自ら主体的に学んでいる
  • 自身や組織が持つ既存の価値観の尊重すべき点を認識しつつ、環境変化に応じた新たな価値観、行動様式、知識、スキルを身につけている
コラボレーション
  • 価値創造のためには、様々な専門性を持った人と社内・社外問わずに協働することが重要であることを理解し、多様性を尊重している
顧客・ユーザーへの共感
  • 顧客・ユーザーに寄り添い、顧客・ユーザーの立場に立ってニーズや課題を発見しようとしている
常識にとらわれない発想
  • 顧客・ユーザーのニーズや課題に対応するためのアイデアを、既存の概念・価値観にとらわれずに考えている
  • 従来の物事の進め方の理由を自ら問い、より良い進め方がないか考えている
反復的なアプローチ
  • 新しい取組みや改善を、失敗を許容できる範囲の小さいサイクルで行い、顧客・ユーザーのフィードバックを得て反復的に改善している
  • 失敗したとしてもその都度軌道修正し、学びを得ることができれば「成果」であると認識している
柔軟な意思決定
  • 既存の価値観に基づく判断が難しい状況においても、価値創造に向けて必要であれば、臨機応変に意思決定を行っている
事実に基づく判断
  • 勘や経験のみではなく、客観的な事実やデータに基づいて、物事を見たり、判断したりしている

デジタルスキル標準ver.1.0:19ページより

DXリテラシー標準の人材を育成するために

上記マインド・スタンスの学習項目を含む学習コンテンツが、マナビDX新しいウィンドウで開くにおいて検索可能とのことですが、デジタルスキルに寄ったコンテンツが多く、マインド・スタンスを正面から捉えた学習コンテンツは現時点では見当たりません。

こうした状況において、各企業で各項目について定期的に実践できているか現場でチェックし、必要に応じてディスカッションする、学ぶ機会を作るなど工夫して、このマインド・スタンスを醸成する学習が抜け落ちないようにすること、それが「DXリテラシー標準の人材育成」においてもっとも重要なのではないかと考えます。

筆者プロフィール

岸田 努

株式会社ネットラーニング 代表取締役社長

外資系情報サービス業で大手企業中心に情報システムを導入。2003年ネットラーニングへ入社。eラーニング導入初期の2000年代においてeラーニング市場作りと開拓を行い、大手企業を中心にコンサルティングに携わり数々の研修を成功に導いた。2021年に代表取締役社長就任。外部団体への参画も精力的に行い、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム、一般財団法人オープンバッジネットワークの理事も務める。

   

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