仕事の流れの中で学ぶ(Learn in the Flow of Work)

公開日:2023/12/28(木)

筆者:岸田努(株式会社ネットラーニング 代表取締役社長)

ジョシュ・バーシン氏が提唱した「仕事の流れの中で学ぶ」とは?

「仕事の流れの中で学ぶ」は、2018年にジョシュ・バーシン氏新しいウィンドウで開くが提唱しました。英語では「Learn in the Flow of Work」と書きます。バーシン氏はHRテクノロジーや企業の人材開発などを行う米国の研究者・専門家で、特にHRテックの第一人者と言われています。日本でもブレンディッドラーニングについての書籍などが翻訳され、その名を知っている方も多いのではないでしょうか。

近年、このバーシン氏が提唱した新しい学習メソッドの「仕事の流れの中で学ぶ」は海外でも大きく注目を浴びており、その学習メソッドを取り入れたプラットフォームも登場してきました。

従来の従業員研修は対面形式、オンライン形式、もしくはeラーニングなどにて提供されてきました。しかし、これらいずれの方法も、研修会場に向かう、オンライン会議システムに接続する、eラーニングプラットフォームにログインするなど、業務または作業からいったん切り離されてしまいます。これに対し、新しい学びのアプローチが目指すのは、従業員が必要なときに、作業を中断することなく学ぶことです。バーシン氏は「仕事の流れの中で学ぶ」を定義する中で、以下のようなことが実現できるとしています。

  1. 従業員が既存の仕事の流れの中で学習コンテンツに常にアクセスできるようにすること
  2. 業務に必要な学習コンテンツが提供されること
  3. 従業員は必要な学習コンテンツや情報にアクセスして学び、適用し、またすぐに作業に戻ることが可能であること
  4. 従業員は学習を普段の仕事の中の一部にすることで、学習によるインプット・アウトプットが即時にでき、より効果的な学習になること
  5. 学習が仕事の流れの中に習慣的に組み込まれることで、学習時間が増加すること

「仕事の流れの中で学ぶ」ことで得られる3つの効果

「バーシン氏は、新しい学習スタイル「仕事の流れの中で学ぶ」の効果について以下の3つを挙げています。いずれもこれまでの人材育成における重要課題であり、これらの効果は企業にとって大きな価値をもたらします。

1.従業員の生産性の向上​
仕事の流れの中で学習することで、従業員にタイムリーな関連情報やトレーニングが提供されます。これにより、業務上の問題や課題をより効果的に解決でき、生産性が向上します。
2.従業員のエンゲージメントとモチベーションの向上​
従業員が仕事の流れの中で学んだ知識を実際の業務の中で直接適用できれば、エンゲージメントとモチベーションを維持できる可能性が高くなります。​
3.満足度の向上と従業員定着率の向上​​
日常的に仕事の流れの中で学習することで、従業員は自らの学習機会創出とキャリア開発を追求でき、満足度と定着率の向上につながります。​​

ラーニングテクノロジーにおける企業研修の進化の歴史

図1は、企業研修がラーニングテクノロジーとともに進化し、「仕事の流れの中で学ぶ」に変容するまでを、バーシン氏が示したものです。横軸は各時代におけるトレンドを説明しており、縦軸は研修のフォーマット、その思想、対象者、使われるシステムを区分けしています。米国の企業を中心としたトレンドのため、少し日本とは差がある部分もありますが、HRテック、ラーニングテクノロジーに精通したバーシン氏がまとめた研修の推移、大きな流れは非常に参考になります。

図1:How Corporate Training has Evolved(企業研修の進化の様子)

引用:https://joshbersin.com/2018/06/a-new-paradigm-for-corporate-training-learning-in-the-flow-of-work/新しいウィンドウで開く

1998~2002年ごろはカークパトリックの研修の効果測定や、インストラクショナルデザインの登場、そしてLMSはeラーニングプラットフォームとして主流でした。2005年を過ぎると、LMSはさらにタレントマネジメントシステムとして利用され、キャリアを重視した人材育成の取り組みが進みました。2010年代ではロミンガーの法則の70-20-10(何がリーダーとしての成長に役立ったかという調査で7割が業務経験、2割が薫陶やすぐれたリーダーや人格者からの影響、1割は研修からという調査結果)が注目され、そして学習はオンデマンドが主流になり、LMSはLXP(学習体験プラットフォーム)へと移行しました。2018年ごろにはモバイルでの学習も増加し、マイクロラーニングや動画での学習を中心に、だれでもいつでもどこでも学べる環境が整いました。そして、2020年以降はLearning in the Flow of workの時代に変化してきたとしています。

変化した労働と学習環境

現代の就労環境や学習環境は以下のように大きく様変わりしました。

  • メンバー型からジョブ型への雇用の変化
  • 細分化・専門化するスキル
  • 従業員のデジタル人材・リスキリングなどの人材開発の急伸
  • 人材の流動化
  • 増えるOJT(1on1)
  • オンライン化による人とのコミュニケーションの変化
  • 業務知識の修得にかかる時間の増加
  • 限られた学習時間

メンバーシップ型からジョブ型に雇用が変化していく中で、従業員のスキルアップはこれまで以上に必要とされています。特に人材の流動化が進む中、新しく入った社員は仕事の多くをOJTで学びます。一方で、近年オンライン化が進み働き方も多様に変化したいま、他人とのコミュニケーションが従来とは変化し、手軽にそしてタイムリーに誰かに教えてもらうことも難しくなってきています。これまでは仕事を進める上で必要とされる知識を学ぶ場合には、会社が提供するLMSにアクセスしコンテンツを探して学習するか、膨大な社内のファイルサーバーにある資料を漁るか、もしくはネット検索をするかなどをして学び、仕事を進めるということをしていました。また、バーシン氏によると、従業員が従来の学び方では、週に24分しか学習できないというおどろきの結果があります。これはおそらく日本においても同じ、もしくはもっと短時間なのではないかと思います。多忙な従業員は仕事にかける時間が多いため、学びの時間がほとんど取れないという深刻な状況の表れでしょう。

こうした生産性が高いとは言えない状況から脱却するために提唱されているのが、ラーニングテクノロジーを活用したバーシン氏のメソッドです。作業から引き離されることなく、たとえば作業で使用しているプラットフォーム上から学習コンテンツへアクセスできるようになれば、作業中に必要なコンテンツにアクセスして学び、すぐに業務に適用してスムーズに進められるような学習設計が可能になります。

従業員が求める学習方法

LinkedInの従業員レポートでは、学習場所について以下の結果が出ています。

引用:LinkedIn従業員学習レポート新しいウィンドウで開く
  • 68%は職場で学習することを好む
  • 58%は自分のペースで学ぶことを好み
  • 49%は必要なときに学習することを好む

これはデジタル技術の台頭やコロナ禍の影響により学びの提供方法がオンラインに大きく移行し、またテレワークなどによる就業のスタイルの多様化などから従業員の学びのスタイルが大きく変わったことの現れかと感じます。こうしたことからも、従業員にとっても学習はより仕事の流れに組み込まれることが好ましいことがわかります。

海外に見るトレンド

人材育成における世界最高峰の国際会議「ATD人材育成国際会議」でも仕事の流れの中で学ぶメソッドは注目を集めています。その中で紹介されているのが、Microsoft社のツールで実現する方法です。

Microsoft社のViva Learning

Microsoft社が提供するMicrosoft Vivaは、従業員全体のエンゲージメントと生産性を高める従業員エクスペリエンスプラットフォーム(EXP)です。その中の機能のひとつにViva Learningがあり、学習コンテンツが Microsoft Teams と Microsoft 365 の中に取り込まれるので、仕事の流れの中での学習を実現することができます。

Viva LearningはTeamsを使って仕事の流れの中で学習することを実現します。詳しくはMicrosoft社が公開しているViva Learningの動画をご覧ください。字幕を日本語に設定することもできます。

コンテンツプロバイダーの利用

Viva Learningでは、Microsoft以外のコンテンツプロバイダーが提供するさまざまなeラーニングを取り込み、仕事の流れの中に学びを組み込むことが可能です。ネットラーニングは、日本企業の外部コンテンツプロバイダーとしてはじめて、Viva Learningとの連携を開始しました。Teams上でViva Learningを開くと、当社のLearningSpaceという定額制プランで提供しているコースが受講できるようになります。詳しくはこちらをご覧ください。

なお、Viva Learningでは説明動画にもあった通り、Teams内で容易に学習コンテンツの共有、推奨、ブックマーク、予定表への追加、評価が可能となっています。

また各チームの中に、Viva Learningのタブを追加することができ、そちらに各チームで必要、もしくは推奨される学習コンテンツを配置するといった使い方もできます。

チャットに直接、学習コンテンツへのリンクを貼り、受講を促すことも可能です。

まとめ

今回は海外でも注目を浴びている「仕事の流れの中で学ぶ」をテーマに取り上げました。この新しい学習スタイルは、Microsoft社のTeams内にあるViva Learningを利用することで容易にチャレンジし、実現することが可能です。Viva Learning内には自社オリジナルのコンテンツもさまざまなファイル形式でアップロードすることができます。仕事の流れの中でさまざまな学習コンテンツにアクセスし、学びを仕事の一部とすることで、平均学習時間が少ないと言われている状況を打破できると信じています。ぜひ多くのお客様にて試してみていただければと思っております!

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筆者プロフィール

岸田 努

株式会社ネットラーニング 代表取締役社長

外資系情報サービス企業で大手企業中心に情報システムを導入。2003年ネットラーニング入社。eラーニング市場作りと開拓を行い大手企業中心に販売。数々の研修を成功に導いた。2021年、代表取締役社長に就任。一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、NPO法人デジタルラーニングコンソーシアムの理事。

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