昨年4月にインターネットを使った企業内教育サービスを開始したネットラーニングは、e-ラーニングを専門とするベンダーである。 独自のプラットフォームを開発し、オリジナルのカタログコースと企業ごとにカスタマイズしたeLearningソリューションをASP方式で提供している。今回は、eLearningソリューションを中心にネットラーニングの企業特性をレポートする。
eLearningソリューションと カタログコースの2つのサービスを 100%インターネット配信 ネットラーニングが提供するe-ラーニングには5つの特徴がある。第1の特徴はコンテンツが100%インターネットによるASP方式で提供される点である。同社ではイントラネットによるWBTをe-ラーニングの過渡的な方法と考えている。 インターネットによるASP方式はイントラネットでの導入と比べ、企業の負担が軽く、全国や世界規模で短期間に大規模な研修を実施できる。またコンテンツの更新もスピーディな対応が可能なためだ。 第2の特徴は、チュータ・サポート機能がシステム上にあらかじめ組み込まれていること。チュータ機能をうたったWBTは多いが、コンテンツとは別にメールで随時質問を受け付けるというスタイルが多い。これでは学習者の意欲によってチュータ機能の活用に差が生じてしまう。そこでネットラーニングは学習コースの各レッスンごとに選択式と記述式のテストを受ける仕組みを導入している。解答を送信すると、チュータが添削し、24時間以内に返信してくれる。誰もが自動的にOne to Oneのチュータサービス機能を活用できるシステムになっているのだ。 第3の特徴はカタログコースのラインナップ。現在はIT技術者要請のためのコースを中心に約40コースがアップされている。 IT系コンテンツの多くがベンダー認定資格のコースを中心にすえているのに対して、同社では資格取得コースよりも先に、JAVAやC言語など、技術者が業務上必要な専門知識を習得できるコースをまずそろえた。 個人のキャリアアップよりも、企業戦略の一環としての研修を重視する同社ならではのラインナップといえる。いくつかの大手コンピュータメーカーグループも、グループ内に同様のコースをもたないため、このカタログコースを採用している。 第4の特徴はeLearningソリューション。企業の研修ニーズに合わせてカスタマイズしたe-ラーニングを提供するサービスである。e-ラーニング導入にあたっての企画コンサルティングからカスタマイズした研修コースの制作・運用まで一貫して手がけている。 第5の特徴は、同社のシステムが独自のオーサリングツールにより、すべてXMLベースで作られている点である。そのため、HTMLベースと比べ、コンテンツの開発・更新のスピードアップとコストダウンを可能にしている。
学習効果を向上させる チュータとのOne to One学習と シナリオのあるプログラム 次に、ネットラーニングのカスタマイズサービスであるeLearningソリューションの特徴をコンテンツ(学習面)とプラットフォーム(運営面)に分けて見てみよう。 学習者にとって良いコンテンツの条件とは、学びやすく、スムーズに学習成果が身につくことだろう。その条件を満たすために、同社が大切にしているのがチュータとのOne to One(個別指導)による学習支援である。 先に述べた通り、レッスンごとに記述式のエクササイズの解答を送信すると、チュータから評価・模範解答やアドバイスが返ってくる。学習者の学習履歴分析に基づき、きめ細かな個別指導が行われるため、より高い学習効果が期待できる。 またコースの作り方にも工夫がある。それを同社では「シナリオのある研修プログラム」と呼んでいる。マニュアルや本とは異なる、学習のためのコンテンツという視点から全体が構成されているのである。目次やページ繰りボタンなど順を追って学ぶ機能はもちろんのこと、目的別に学びたい部分に直接アクセスする機能も付加されている。 たまに見受けられるのが、内容が豊富で映像などさまざまな仕掛けが多用されたコンテンツだ。一見したところは目を引くものの、学習効果は低い。双方向性をいかし、チュータとのやりとりで”Learning by doing”を実施することがかぎとなる。 同社のコンテンツは、あくまでも学習効果を上げる視点から、ポイントを厳選し、ひとつのレッスンを15分から20分とコンパクトに区切り、一度に身につけやすい分量に編集されている。このため学習者はテンポよく学習を進めていくことができる。 これらのエッセンスが生かされたカタログコースは非常にシンプルな画面構成だが、カスタムベースの場合には必要に応じてスライド・音声・動画やアニメーションなどの機能を付けることももちろん可能だ。
職場で学習しやすいスタイルと チュータ・サポート効果で カタログコース修了率は82% こうしたコンテンツ面での工夫が、実際の利用者にとってどうとらえられているかを、カタログコースの利用状況で見てみよう。 カタログコースは受講時間が20〜30時間、全受講生の実績受講期間は平均1カ月半。平日の昼間、つまり仕事中の利用が75%を占めている。 また利用は1回あたり20分で1日2回のアクセス。これも仕事の合間に利用されていることを物語っている。個人の資格取得よりも企業で求められる業務習得を重視するネットラーニングの狙いが反映された形だ。 また、同社が行ったアンケートではチュータ・サポート機能に対する評価が非常に高く、もっとチュータとコミュニケーションできる内容をシステムに組み入れてほしいという声もあるほどだ。チュータの利用状況を見ると、記述式テストで10〜15回、個別の質問が7〜12回と、学習者自らチュータにアクセスする回数の方が少ない。これらの結果から、同社ではチュータ・サポート機能を今後さらに充実させていく予定だ。 カタログコースの修了率は現在9割近い。チュータがつかないWBTでは、平均修了率は2割程度といわれる。コンテンツの工夫が学習効果に直結した結果といえるだろう。高い学習効果が評価され、カタログコースは大塚商会にもOEM供給されている。
XMLベースのオーサリング システムNL-ICAPで 制作・更新が容易にできる eLearningソリューションの制作過程は次のようになる。まず顧客企業のニーズを踏まえ、コンサルティングに基づきコースの企画を行う。企画に最適な著者がコンテンツのベースとなる原稿を作成。原稿は企業側で用意することももちろん可能だ。上がった原稿を基に、先に述べたようなネットラーニングのもつコンテンツノウハウを加味して編集作業を行う。編集されたテキストを独自のオーサリングツールでXMLファイル化し、最終的な検証をしたうえでリリースされる。分量にもよるが、受注から2〜3カ月での導入が可能だ。 ネットラーニングのプラットフォームには、同社が独自に開発したオーサリングツールNL-ICAP(NetLearning-Integrated Course Authoring Platform)がセットされている。このNL-ICAPにより、制作工程の効率化が可能になっている。従来の制作では、原稿を複数のスタッフ間でメールやファックスなどでやりとりしながら行われるケースが多いが、それぞれの進捗状況を管理することは容易ではない。しかしNL-ICAPであれば、ネットラーニングのインターネットサーバー内で進捗状況を一元管理する。制作に携わる多数のスタッフが手順に応じてブラウザー上でファイルをドラッグしてダウンロードして作業を行い、終わったらまたサーバーにアップロードする。次の工程を担当するスタッフには、自動的にメールで知らせる仕組みになっている。テキスト、画像、音声などの各部品毎に自動的に進捗が記録され、管理がおこなわれる。 また、ネットラーニングではXMLをさらに簡易化した独自のオーサリングツールを用いている。テキストファイルに簡単なタグを打ち込むだけで、それをサーバーに送れば簡単にXMLファイルにすることができる。したがって制作はもちろんのこと、更新も容易に行うことが可能だ。特別な編集ソフトを組み込む必要もないので、インターネットとパソコンさえあれば、いつでもどこでも作業ができる。 このようにNL-ICAPは、制作者はもちろん、企業担当者やチュータにとっても使いやすいプラットフォームとなっている。利用顧客からの反響も高く、このプラットフォームを使って学習コースを開発するベンダーもふえている。 ネットラーニングでは、このオーサリングとラーニングマネージメントシステム、およびデリバリーシステムをあわせた統合環境も、ASPにより、コンテンツベンダーや企業に提供している。 このプラットフォームは、出版社や新聞社をはじめ有力コンテンツをもつ多くの企業が採用の方向で検討しているという。
ITだけでなく階層別・課題別など 社員教育の多様な分野で 総合的なソリューションを提案 カタログコースがIT中心のためか、同社をIT系に特化したベンダーととらえている向きもあるようだが、eLearningソリューションはマネジメント研修や金融機関のコンテンツ制作などですでに実績をもち、基本的にどのような分野の研修コンテンツでも対応が可能だ。最近では、大手電機メーカーが人事制度移行にあわせ、3000人の管理者向けの新しい研修制度にeLearningソリューションを採用している。 ネットラーニングのようにインターネットによる配信やチュータ機能をアピールするベンダーは少なくない。しかしその中身にはかなりの違いがある。e-ラーニングを提供するベンダーが増え、e-ラーニングに対する理解も進んできているだけに、今後は学習しやすいコンテンツかどうか、あるいは運営しやすいシステムであるかどうかが選択の重要なポイントとなってくる。このような状況の中で、ユーザーの学習環境と運営環境を第一に考えたシステムをいち早く確立したネットラーニングは注目に値する。