戦略化する企業研修
1999年の米国の企業研修費は、約630億ドル。それに対して、日本は約6000億円と言われる。総額では10倍以上、経済規模や人口比を勘案した職員1人当たりの金額では、ほぼ5倍の差があるといえるだろう。しかも、米国の企業研修費は大きく増え続けており、現状のままではその差は開く一方である。
当然のことだが、この大きな差の背景には、単なる量的な差ではない質的な差が含まれている。一言でいえば、日本の「機能的な研修」に対して、米国の「戦略化した研修」の違いと言えるだろう。
知識が競争力のベースとなる時代に、知識の生産能力を高め、有効に共有するためには、職員に対する教育は不可欠である。それは、企業の競争力の核心にかかわるものといってよい。しかも、これだけ変化が速く、ダイナミックな対応が求められている時に、大規模で短期間に実施できる研修は重要だ。米国の戦略的な研修の背景には、会社全体を巻込むビジネス環境の急速の変化と、そしてその変化へ対応するための学習・研修体制の構築がより重要となっていることがあげられる。
その戦略的な研修を実施するための新しい手段として、eLearningが活用されている。インターネットを主要な媒体とするeLearningには、「いつでも、どこでも」受講することができるという特徴がある。さらにコストが、集合研修と比べて半分以下ということも、急速な普及を促した。
しかしそれ以上に、短期間に大規模に実施できることや、双方向性を活かしたOne to oneの指導が可能であることから、集合研修よりも研修効果が高いことなどが注目されている。教育は、双方向であってこそ効果を上げることができるが、これまでの集合研修は、黒板を背に先生がレクチャーし、生徒は、先生の方を向いて話を聞くものであり、基本的には一方通行であった。双方向性を活かして最近では、ビジネスシュミレーションなどによる高度な教育にもeLearningは活用され始めている。
米国の企業研修担当者の協会は、ASTD(American Society for Training and Development)とよばれている。毎年、6月に開催される総会には、1万名以上が参加する。私もこの総会には出席しているが、この協会が、昨年から名称を改めた。フルネームを止め、親しまれてきた略称のASTDを本来の意味から離れ正式の名称にし、"Learning and Performance"を書き添えることにした。この背景には"training"から"learning"へという考え方の大きな転換があったからだ。
双方向性を活かし、学習者の主体性を重視するeLearningによって、研修そのもののあり方まで見直されているのである。
eLearningがあってこそ、戦略的企業研修が可能になり、eLearningが戦略的企業研修の重要な手段になっているのだ。