eラーニングにおけるトータル・ソリューションを提供するネットラーニングの代表取締役社長である岸田徹氏に,企業研修におけるeラーニング動向についてお話を伺った。 巨大市場になりつつあるアメリカのeラーニング ――2001年は,日本でも新聞や雑誌などで,頻繁にeラーニングという言葉を目にするようになりました。 特に企業内研修では,急速に利用が広がりつつあるようです。まず,最初にeラーニング先進国でもあるアメリカの現状をご紹介ください。 岸田 eラーニングの分野をみると,アメリカは日本より2〜3年ほど進んでいるといえるでしょう。 アメリカのeラーニングの中心となっている企業の多くは,1996年に設立されています。その後,99年の春から夏にかけて,eラーニング市場のブレイクがありました。これは急激なブレイクで,一挙に市場規模が広がり,2001年の市場規模は,日本円で約4000億,2003年は114億ドル(約1兆4000億円),2004年には230億ドル(約2兆8000億円)になると予想されています。 このブレイクは,情報技術関連産業がリードしました。続いて金融分野,さまざまなビジネススキルの分野,最近ではあらゆる分野に広がってきています。米国連邦準備制度(FRB)やFBI(米連邦捜査局)のホームページにも,eラーニングがあるほどです。 例えば,日本では運転免許証が失効した場合など,再取得のために運転免許試験場に行って講習を受けますが,アメリカではこれもeラーニング化されています,従って,これを受ければ試験場に行かなくても,免許証の「復活」の手続きができるようになっています。アメリカの主な企業のほとんどが,何らかの形でeラーニングを導入しているといえます。 私は,これはレコードがCDに取って代わった状況に似ていると感じます。そのスピードもそうですが,レコードからCDに変わった時,ただ変わっただけではなくて売り上げが3倍に増えました。同じような状況がeラーニングにもいえます。eラーニング化していく過程で,一気に教育・研修の中味も大きく変わり,規模も変わるでしょう。 ――アメリカで市場規模が急激に拡大しているということは,eラーニングを手掛ける会社も増えていることを意味するのでしょうか。 岸田 2001年9月30日から10月3日までロサンゼルスで,OnLine Learning 2001が開催されました。今回は参加企業が,かなり減りました。アメリカのeラーニング企業は数千社とも1万社ともいわれ,これまでは会場に殺到していたのですが,今回は参加社も半減しました。もちろん,同時多発テロの影響もありますが,むしろ大きな規模で,非常に質の高いサービスを提供するeラーニングの核となる企業が,50社程度に絞られつつあることが,その原因と考えます。つまり,アメリカは,玉石混淆の競争時代から,次のステージに入りつつあるという印象をもっています。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 情報技術・金融関連産業が続々とeラーニング導入 ――2001年は日本でも,企業研修などにeラーニングを利用する動きが出てきたようですが,日本企業が取り入れ始めたのはいつごろからでしょうか。 岸田 日本では1998年〜99年ころには,企業研修にeラーニングを導入する企業が出始めました。そして,1999年のアメリカのブレイクと同じような状況は,2001年の7月から8月にあったと感じています。 日本でも一挙に広がるという状況に入ったといっても構わないでしょう。ここで,特に広がっているのはグローバル企業です。これらの企業は,アメリカの企業がeラーニングでどれほど強くなったかを知っており,彼らと競合しているわけです。従って,グローバル企業は大変な危機感をもって,eラーニングを導入し始めています。 それから統計をとったわけではないのですが,情報技術分野の企業では,3〜4割が導入しているのではないかという実感があります。最近で目立つのは,金融関係の企業です。ただ,見る角度によって随分違って,「まだら模様」ともいえます。つまり,以上のような企業をターゲットにしていれば,急激に伸びているし,そうでないところならば「まだまだ」と感じられるでしょう。大手企業の導入状況は4〜5%程度ではないでしょうか。 ――他産業に比べて,情報技術や金融関連業種が積極的にeラーニングを取り入れ始めていることについて,特に理由があるのでしょうか。 岸田 まず情報技術者は,パソコンに向かって仕事をするため,eラーニングが導入しやすい環境にあります。そこで,学習することに対しての抵抗感もない。また,この分野は非常に技術の変化が早いことが特徴です。技術者が不足していることに加え,「技術者自身が毎年,自分のもっている技術の20%を失う」といわれています。現状維持するだけでもその20%を補強しなければならず,なおかつ新しい技術が出てきます。その意味で,研修ニーズが非常に強いといえます。 金融分野でも最近,次々と新たな金融商品が開発され,また銀行と証券業の壁も低くなりました。最も変化の激しい業界であり,知識ベースを問われる仕事であることから,研修ニーズが高いわけです。 ――導入した企業・講習を受けた人の評価はいかがでしょうか。 岸田 刻々と評価は変わっているといえます。2000年の春から秋にかけては,まだ多くの人が,eラーニングとはどのようなものかを確かめてやろうといった感じで,受講している状況でした。受講者の反応をみると,「まだ本やCD-ROMで勉強するのとは変わらない」という人が,2割程度いました。そして,2000年秋から2001年の春にかけては,世の中がeラーニングに肯定的になってきています。従って,受講した人の約9割の人が,肯定的な返答で,「次の学習では本やCD-ROM,教室などの従来型で勉強したい」という人が激減します。 利用企業にとって,「eラーニングがどのようなものか体験してみよう」というのが第1ステージ,「いろいろな教育方法があるなか,eラーニングは良い」と肯定的になったのが第2ステージとすると,2001年の春以降は第3ステージに入ったといえます。研修・教育において,選択の余地はeラーニングしかなく,それをより良くするために,あらゆる要求をしてくる段階になりました。つまり,「今後研修はすべてeラーニングになるのだから,こうあるべきだ」といった要求をしてくるようになっています。 ――eラーニングでは,インターネットを利用することになるのでしょうか。専用のインフラは必要ないのでしょうか。 岸田 eラーニングが始まったころは,イントラネット型が多かったようです。その理由としては,CD-ROMを利用したものから発展したことと,eラーニングを提供する会社もコンピュータ系の会社が多く,イントラ型サーバを導入するケースが多かったことがあります。しかし,今ではアメリカ,日本ともインターネット型が主流になっています。 インターネット型のほうが初期導入の費用が必要なく,全国に拠点があるような場合でも問題はありません。また,数名から数万人でも対応できる点も挙げられます。 ――eラーニングを提供する会社は,当初コンピュータ系の会社が多かったとのことですが,現在,どのような企業がeラーニングの提供を行っているのでしょうか。 岸田 新しい分野ですから,ほとんどの企業が他業種からの参入です。一つはコンピュータハードメーカーが母体になった会社です。その多くは,イントラネットサーバを売るビジネスをベースに参入してきたもので,コンテンツは社外から仕入れています。 次に,学校や通信教育会社などコンテンツを作るところ,もっているところで,比較的小規模なベンチャー系の企業も多いのが特徴です。 もう一つが,研修やコンサルタント会社がアメリカの会社と提携して,ソフトを日本向けに翻訳して参入したものです。 4つ目がプラットフォーム(learning management system),つまりコンテンツではなくて,それを動かす基礎的なサーバシステムだけを提供するアメリカの会社が,日本法人を設立して参入しています。 アメリカではほとんどが,始めからeラーニング専業会社として設立されたベンチャー企業なのですが,日本ではそのような企業は少ないのです。 ――御社は,このうちのどのタイプなのでしょうか。また,日本にはeラーニング企業はいくつぐらいあるのでしょうか。 岸田 現在,日本には100社程度のeラーニング企業があると推定されます。 そのなかで,当社は前述の4つの分類からみればユニークな会社だといえます。自らインターネットサーバを作り,コンテンツを作成し,チュータというサービスを提供します。 日本のeラーニング企業は,BtoBである企業向けのサービスを提供する会社,BtoCの一般消費者向けのサービスを提供する会社に分けられます。BtoBを手掛けている会社は,まだそれほどありません。 消費者向けのビジネスについては,まだ早いようで,現状では苦戦しているようです。私は,BtoCのeラーニング市場が,本格化するのは2年後ぐらいではないかと予想しています。まだeラーニングが一般の人まではよく知られていないからです。 当社は業務研修向けで300社ほどに提供し,既に6万人の受講者がおりますが,こういったeラーニングのメリットを理解した人が増えていくことによって,市場が本格化します。それが2年後ではないかということです。その時は当社もBtoC市場に参入します。