NetLearning in News ~掲載記事一覧~

Printers Circle 2002年1月号
市場が急拡大する企業研修・教育におけるeラーニング
-eラーニングは研修・教育の在り方を変える-(株)ネットラーニング (P19~23)

eラーニングにおけるトータル・ソリューションを提供するネットラーニングの代表取締役社長である岸田徹氏に,企業研修におけるeラーニング動向についてお話を伺った。


巨大市場になりつつあるアメリカのeラーニング

――2001年は,日本でも新聞や雑誌などで,頻繁にeラーニングという言葉を目にするようになりました。
特に企業内研修では,急速に利用が広がりつつあるようです。まず,最初にeラーニング先進国でもあるアメリカの現状をご紹介ください。

岸田  eラーニングの分野をみると,アメリカは日本より2~3年ほど進んでいるといえるでしょう。
アメリカのeラーニングの中心となっている企業の多くは,1996年に設立されています。その後,99年の春から夏にかけて,eラーニング市場のブレイクがありました。これは急激なブレイクで,一挙に市場規模が広がり,2001年の市場規模は,日本円で約4000億,2003年は114億ドル(約1兆4000億円),2004年には230億ドル(約2兆8000億円)になると予想されています。
このブレイクは,情報技術関連産業がリードしました。続いて金融分野,さまざまなビジネススキルの分野,最近ではあらゆる分野に広がってきています。米国連邦準備制度(FRB)やFBI(米連邦捜査局)のホームページにも,eラーニングがあるほどです。
例えば,日本では運転免許証が失効した場合など,再取得のために運転免許試験場に行って講習を受けますが,アメリカではこれもeラーニング化されています,従って,これを受ければ試験場に行かなくても,免許証の「復活」の手続きができるようになっています。アメリカの主な企業のほとんどが,何らかの形でeラーニングを導入しているといえます。
私は,これはレコードがCDに取って代わった状況に似ていると感じます。そのスピードもそうですが,レコードからCDに変わった時,ただ変わっただけではなくて売り上げが3倍に増えました。同じような状況がeラーニングにもいえます。eラーニング化していく過程で,一気に教育・研修の中味も大きく変わり,規模も変わるでしょう。

――アメリカで市場規模が急激に拡大しているということは,eラーニングを手掛ける会社も増えていることを意味するのでしょうか。

岸田  2001年9月30日から10月3日までロサンゼルスで,OnLine Learning 2001が開催されました。今回は参加企業が,かなり減りました。アメリカのeラーニング企業は数千社とも1万社ともいわれ,これまでは会場に殺到していたのですが,今回は参加社も半減しました。もちろん,同時多発テロの影響もありますが,むしろ大きな規模で,非常に質の高いサービスを提供するeラーニングの核となる企業が,50社程度に絞られつつあることが,その原因と考えます。つまり,アメリカは,玉石混淆の競争時代から,次のステージに入りつつあるという印象をもっています。

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情報技術・金融関連産業が続々とeラーニング導入

――2001年は日本でも,企業研修などにeラーニングを利用する動きが出てきたようですが,日本企業が取り入れ始めたのはいつごろからでしょうか。

岸田  日本では1998年~99年ころには,企業研修にeラーニングを導入する企業が出始めました。そして,1999年のアメリカのブレイクと同じような状況は,2001年の7月から8月にあったと感じています。
日本でも一挙に広がるという状況に入ったといっても構わないでしょう。ここで,特に広がっているのはグローバル企業です。これらの企業は,アメリカの企業がeラーニングでどれほど強くなったかを知っており,彼らと競合しているわけです。従って,グローバル企業は大変な危機感をもって,eラーニングを導入し始めています。
それから統計をとったわけではないのですが,情報技術分野の企業では,3~4割が導入しているのではないかという実感があります。最近で目立つのは,金融関係の企業です。ただ,見る角度によって随分違って,「まだら模様」ともいえます。つまり,以上のような企業をターゲットにしていれば,急激に伸びているし,そうでないところならば「まだまだ」と感じられるでしょう。大手企業の導入状況は4~5%程度ではないでしょうか。

――他産業に比べて,情報技術や金融関連業種が積極的にeラーニングを取り入れ始めていることについて,特に理由があるのでしょうか。

岸田  まず情報技術者は,パソコンに向かって仕事をするため,eラーニングが導入しやすい環境にあります。そこで,学習することに対しての抵抗感もない。また,この分野は非常に技術の変化が早いことが特徴です。技術者が不足していることに加え,「技術者自身が毎年,自分のもっている技術の20%を失う」といわれています。現状維持するだけでもその20%を補強しなければならず,なおかつ新しい技術が出てきます。その意味で,研修ニーズが非常に強いといえます。
金融分野でも最近,次々と新たな金融商品が開発され,また銀行と証券業の壁も低くなりました。最も変化の激しい業界であり,知識ベースを問われる仕事であることから,研修ニーズが高いわけです。

――導入した企業・講習を受けた人の評価はいかがでしょうか。

岸田  刻々と評価は変わっているといえます。2000年の春から秋にかけては,まだ多くの人が,eラーニングとはどのようなものかを確かめてやろうといった感じで,受講している状況でした。受講者の反応をみると,「まだ本やCD-ROMで勉強するのとは変わらない」という人が,2割程度いました。そして,2000年秋から2001年の春にかけては,世の中がeラーニングに肯定的になってきています。従って,受講した人の約9割の人が,肯定的な返答で,「次の学習では本やCD-ROM,教室などの従来型で勉強したい」という人が激減します。
利用企業にとって,「eラーニングがどのようなものか体験してみよう」というのが第1ステージ,「いろいろな教育方法があるなか,eラーニングは良い」と肯定的になったのが第2ステージとすると,2001年の春以降は第3ステージに入ったといえます。研修・教育において,選択の余地はeラーニングしかなく,それをより良くするために,あらゆる要求をしてくる段階になりました。つまり,「今後研修はすべてeラーニングになるのだから,こうあるべきだ」といった要求をしてくるようになっています。

――eラーニングでは,インターネットを利用することになるのでしょうか。専用のインフラは必要ないのでしょうか。

岸田  eラーニングが始まったころは,イントラネット型が多かったようです。その理由としては,CD-ROMを利用したものから発展したことと,eラーニングを提供する会社もコンピュータ系の会社が多く,イントラ型サーバを導入するケースが多かったことがあります。しかし,今ではアメリカ,日本ともインターネット型が主流になっています。
インターネット型のほうが初期導入の費用が必要なく,全国に拠点があるような場合でも問題はありません。また,数名から数万人でも対応できる点も挙げられます。

――eラーニングを提供する会社は,当初コンピュータ系の会社が多かったとのことですが,現在,どのような企業がeラーニングの提供を行っているのでしょうか。

岸田  新しい分野ですから,ほとんどの企業が他業種からの参入です。一つはコンピュータハードメーカーが母体になった会社です。その多くは,イントラネットサーバを売るビジネスをベースに参入してきたもので,コンテンツは社外から仕入れています。
次に,学校や通信教育会社などコンテンツを作るところ,もっているところで,比較的小規模なベンチャー系の企業も多いのが特徴です。
もう一つが,研修やコンサルタント会社がアメリカの会社と提携して,ソフトを日本向けに翻訳して参入したものです。
4つ目がプラットフォーム(learning management system),つまりコンテンツではなくて,それを動かす基礎的なサーバシステムだけを提供するアメリカの会社が,日本法人を設立して参入しています。
アメリカではほとんどが,始めからeラーニング専業会社として設立されたベンチャー企業なのですが,日本ではそのような企業は少ないのです。

――御社は,このうちのどのタイプなのでしょうか。また,日本にはeラーニング企業はいくつぐらいあるのでしょうか。

岸田  現在,日本には100社程度のeラーニング企業があると推定されます。
そのなかで,当社は前述の4つの分類からみればユニークな会社だといえます。自らインターネットサーバを作り,コンテンツを作成し,チュータというサービスを提供します。
日本のeラーニング企業は,BtoBである企業向けのサービスを提供する会社,BtoCの一般消費者向けのサービスを提供する会社に分けられます。BtoBを手掛けている会社は,まだそれほどありません。
消費者向けのビジネスについては,まだ早いようで,現状では苦戦しているようです。私は,BtoCのeラーニング市場が,本格化するのは2年後ぐらいではないかと予想しています。まだeラーニングが一般の人まではよく知られていないからです。
当社は業務研修向けで300社ほどに提供し,既に6万人の受講者がおりますが,こういったeラーニングのメリットを理解した人が増えていくことによって,市場が本格化します。それが2年後ではないかということです。その時は当社もBtoC市場に参入します。

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eラーニングの本質を踏まえたコンテンツ製作を

――次にコンテンツについて,伺いたいのですが,Webでの提供となると,紙のテキストを作成するのとは違ってくると思われます。eラーニング用のコンテンツ作成におけるポイントは,どういった点なのでしょうか。

岸田  学校とeラーニングとは,本質的な部分で異なるものだと考えます。そのため,従来の学校で集合教育を行っている教育関係者が,eラーニング用のコンテンツを作成することは,大変難しいのではないかと感じます。例えば,百貨店とスーパーを比べると,小売業という分野では同じでも,ビジネスのアプローチの仕方が異なります。スーパーをやっているからといって,簡単に百貨店ビジネスに参入・成功できないように,eラーニングのコンテンツ作成にも,独自のノウハウが必要であり,教室用のテキストとは相当異質なものです。
eラーニングコンテンツ作成には大きく2つの流れがあると考えています。一つは,CD-ROMからのもので,これはコンピュータソフトを作るような手法で,コンテンツを作っている面が強いのです。
一方,出版の流れに近い作成の仕方があります。当社の製作がそうなのですが,出版のエディターのようなノウハウを駆使して作っていきます。当社はだいぶ他社とは違うコンテンツ作りの仕組みを有しており,提供するあらゆるコンテンツ,例えば,情報技術関連のものから,英語研修,金融関連のものまで,すべて自社で作成しています。これは編集者のノウハウがあるからできるのです。

――編集のノウハウといっても,紙のテキストを作るのとは,かなり違うのではないですか。

岸田  もちろん本質的な部分で違いがあります。一つは,双方向性をもったネットワークを利用したやり取りがあること。もう一つは,デジタル情報を処理することができます。これを踏まえたコンテンツ作りが前提となります。
情報処理ができるので,受講者は自分の実力に合ったコースを自動的に選択しながら,学習できます。あるいは学習履歴が分析できて,あらゆる形でそれを活用できます。また,双方向性の面では,人が人を細かくサポートする仕組みを作ることが可能です。このようなことが,本とは違う点です。
しかし,eラーニングの捉え方は,各社でかなり違います。例えば,「本とどこが違うのですか」という問いには,多くは「動画や音が出ます」と答えるでしょう。従って,eラーニングの普及には高速のネットが必要という見方になるのです。
当社の場合には,音や動画がeラーニングコンテンツ作りの本質ではないと考えています。今のインターネットのスピードでも,十分eラーニングを行えます。eラーニングの本質とはネットであること,双方向性があることなのです。当社ではチュータと呼ぶ担当を置き,受講者の学習をサポートすることで,修了率も高くなっています。

――実際のコンテンツ製作はどのように行っているのでしょうか。

岸田  当社の場合には,コンテンツ開発部門を抱えていますが,実際の製作作業は外注も行っています。当社では制作のためのツールを独自に開発して,制作者にその環境を提供しています。ツールはベースにXMLを利用しているため,短期間に低コストで製作できます。また,ネット上で同時に多人数の制作者が作業にかかれます。その場合でも,ドラッグするだけで次の工程に進み,制作進行管理が自動的に行えるような制作環境になっています。すべてネット上で制作できるシステムになっていますので,東京だけではなく,沖縄にも制作者のチームがあります。

――今までは,テキストは紙が主流だったわけですが,全く存在しないのでしょうか。

岸田  当社の場合にはすべてデジタルコンテンツで,紙のテキストは全く存在しません。学習する時も,印刷物を配布することはありません。

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規模・コストのメリットを生かせるeラーニング

――eラーニングを企業が導入する時には,どのようなポイントがあるのでしょうか。

岸田  まず,「なぜeラーニングを導入するのか」といった目的を明確にすることが,最も重要です。eラーニングは非常に戦略的だといわれています。従って,自社の企業研修全体をどのようにするのか,そしてそのなかで,eラーニングをどのように位置付けていくのかが重要になります。
次に,eラーニングの良さをどこで判断するのかということがあります。一つは規模の点です。例えば,受講者が3万人でも10万人でも対応できます。アメリカのチェース・マンハッタンの担当者は,「短期間に機動力をもって,大規模の研修が行え,たくさんの人間を一挙に教育できるシステムはeラーニングしかない」と採用の理由を語ってくれました。
次にワンtoワンであるということ。一人ひとりの学習状況をみて,個別指導ができる。従って,前述したように,その人の力をみてコースを選択することさえできます。かつては,個別性と大規模は同時には成り立たなかったのです。CD-ROMを配れば,規模についてはかなりの受講者をカバーできますが,インターネットでは海外でも時間差がなく,できてしまいます。
また,内容の豊かさにおいても,理解度と到達度を個別に把握できます。教室での集合教育では,受講者が話を聞いていても,本当に理解しているのかどうかが分かりません。アメリカのeラーニング関係者が「落ちこぼれ」という言葉は教室で生まれたと語っていましたが,スピードを合わせようとするのが教室での学習です。理解している人は先に進めないし,理解が遅れている人は,そのことが「悪」にされてしまいます。eラーニングでは,自分の理解のスピードに合わせて学習できます。理解が早い人は先に進めるし,遅くても理解すれば良いのであり,理解が遅れていることが「悪」ではないのです。
以上のように,規模とワンtoワンを生かすという観点で,eラーニングを導入すると効果的です。
次にコスト面でみると,一般的には従来の集合研修などの4分1で行えるといわれています。規模が大きな研修では,それが10分1以下,1人当たり数百円で済むケースもあります。設備面でも基本的には,インターネットにつながったパソコンがあれば十分です。

――eラーニングはどのような流れになっているのですか。

岸田  各社でそれぞれの特徴があるのですが,当社の例を紹介します。
当社のコースはほとんどが業務研修用ですが,受講者の75%が勤務時間内に受講しています。一つのコースは15分か20分で区切れるようになっており,平均すると1回20分,1日2回くらいの学習で,30時間のコースを45日程度で修了しています。
受講できるのは情報技術関連,MicrosoftOfficeなどのビジネスアプリケーションのスキル,プログラミング言語などの診断テスト,資格関連,語学など,100コースあります。
このほか,各企業研修用に,それぞれカスタマイズして提供しています。これについては,導入企画から研修実施まで2カ月から5カ月程度で行えます。 研修が始まれば,チュータによる学習サポートで修了率約90%に達し,高い学習効果が期待できます。
このサポートについては,メンタリング,コーチング,チュータリングの3つに大別できるでしょう。メンタリングとは最後まで学習できるように,学習面での支援を行うことです。コーチングは学習内容の指導です。当社の行っているチュータリングとは,このどちらも行うことです。この存在が重要な要素になります。
当社はeラーニングはサービス業であり,このチュータの存在こそがノウハウであり,チュータのサポートこそがメーンビジネスであると考えています。

――今までのお話から,eラーニングによる企業研修は大企業に向いているような印象を受けますが,中小企業における普及状況はどうなのでしょうか。

岸田  確かにまだ中小企業の導入は少ないですが,eラーニングは少人数から数万人まで対応できるのです。初期費用も必要なくて,あとは受講料だけで済みます。中小企業の方にも,その良さを知っていただければ,一挙に広がる可能性があります。

――今後,eラーニングの将来についてどのようにお考えですか。

岸田  実は,日本においては企業ニーズに比べて,eラーニングを提供する側の会社がまだまだ少ないために,市場が広がりにくくなってます。日本が経済回復するためには,教育研修は日本企業復活のカギになります。そういう意味では,ニーズにこたえるだけの新規の参入が望まれますし,当社はそういった環境を提供し,業界の活性化に貢献していきたいと考えています。
また,BtoCの分野において普及が始まると,周辺分野でも大きな可能性を秘めていると考えています。その時は,eラーニングは出版形態やeBookと深くかかわってくるのではないでしょうか。eBookは紙のコンテンツをそのままデジタル化し,ネットにのせたのが第1世代です。第2世代のeBookでは双方向性がポイントになります。特に実用書などは,丸ごと1冊購入するのではなく,必要な部分のみ購入するなど,その形態は限りなくeラーニングに近づきます。
また,エンターテインメントの部分でもeラーニングが密接にかかわっていくでしょう。そうした意味で非常に可能性を秘めており,eラーニングがBtoCの世界に入り込むことで,PDAや携帯電話などでのモバイルラーニングも視野に入ってきます。アメリカではeラーニングは,ネットビジネス最大の市場になると予測されており,今後ますます注目を集めることになると思います。