NetLearning in News ~掲載記事一覧~

VEHICLE Vol.15,No.1  -(社)日本印刷技術協会発行-
「eラーニングのビジネス構築」
-2003年2月7日PAGE2003コンファレンス「XMLコンテンツで進化するeラーニングの開発・制作・運用
コラボレーション」より-(P13~17)

市場動向

eラーニングは今までの教育とは全く違う教育である。そのことが、教育研修のあり方さえも変えていっている。特にアメリカのグローバル企業では、eラーニングが競争力の基盤であるというほどの影響を与えている。そのような大きな変革がすさまじいスピードで進行しているのだ。
アメリカでは1999年頃市場が爆発し、eラーニング提供会社は5,000社と言われたが、今は主力企業は、50社くらいに絞られてきている。市場規模は2003年で1兆円超。ゲーム市場が1999年で89億ドル、現在約100億ドルになっているが、数年でハード、ソフト合わせたゲーム市場を超える勢いがある(図1)。
日本の企業研修費は正確なデータがないが、6,000億円くらいと推定している。アメリカには詳細なデータがあり、日米を比較すると1人当たりの企業研修費は5倍の格差がある。日本はアメリカの5分の1しか教育にお金を使っていないのである。
教育研修の位置付けもまた違う。アメリカでは戦略の基盤に教育研修が置かれているが、日本では担当者がいてそのセクションがやっているという程度である。
図2は、ネットラーニングの日本の市場予測である。これは企業研修だけの市場予測で、学校関係、生涯教育まで含めると、2010年に1兆円(NTTデータ経営研究所)と言われているが、これはかなり低い数字ではないか考えている。
さて、ネットラーニングでは2000年4月からサービスを開始しており、3年近くになる。ユーザ企業は今年3月末で866社、累計の受講者数が34万4,566人、1日に7万ページの学習が行われている。1ページの学習時間が15分~20分なので、毎日膨大な学習が行われているということになる。
現在、外部企業に依頼してeラーニングを行なっている企業は3,000社程度と推定している。ネットラーニングの主なユーザ企業は、キヤノン、三洋電機、三菱商事、野村證券、マイクロソフトなど。業種も、自動車産業、薬品関係、流通関係、そして金融関係も増えている。
おそらく日本の主要産業のトップ企業のほとんどがeラーニングに取り組んでいるという状況であろう。とりわけグローバル企業はアメリカの現状をよく実感しているので、トップをはじめとして相当な危機感を持ってeラーニングに取り組んでいる。ネットラーニングのシステムの導入に際しても、トップの即断が多くみられる。

▼図1 eラーニング研修市場の急拡大
図1 eラーニング研修市場の急拡大

▼図2 日本のeラーニング企業研修市場予測
図2 日本のeラーニング企業研修市場予測

業界動向

今業界関係者にeラーニングについて話を聞くと、皆違う話が出てくる。市場は急成長しているという話もあれば、停滞しているという話もある。本当はどうなのか。実は、市場全体をまとめてみるのは難しい。でこぼこがあり、山も、川も、谷もあるという市場状況で、ある角度から見るとある部分は大変急成長しているし、ある角度から見ると停滞しているという状況なのである。
もともとIT関連の企業からeラーニングの導入が始まったのだが、実感では、この分野での導入率は40%程度。一般企業は、やはり実感では、10%程度の導入率である。
ただし、業界トップクラスの企業はほぼ100%の導入率であろう。分野としては、ITについで、広く各分野への導入が急速に拡大している。そして一部戦略的な導入、つまり全企業的な導入も始まっている。
業界の状況もラフに見ることしかできないが、eラーニングを提供している会社は250社程度で、あまりにも少ないと思っている。アメリカに比べて、日本のeラーニング業界の競争はほとんどないに等しいくらい少ない。ベンダー側が競争の中で努力していかないといいものが提供できず、もっと競争が激しくなればと思っている。
内容で言うと、大半はBtoCで消費者向け、個人向けだが、ほとんどが苦戦している。成功事例は大変少ない。一方、市場全体を見ると、大変有力な企業の撤退も相次いでいる。参入もすさまじく、入り交じっているというのが現状である。市場ができて数年たち、今は各社がビジネスモデルを実験してチャレンジする形で競い合っている段階である。その中で、企業向け、すなわちBtoBで有力なのは10社程度である。
企業向けモデルは、契約単位が大きいということでビジネスを成り立たせている。BtoBモデルの中でも、1社あたり数百、数千の受講のものが、現在はビジネスとして成立していて、1社当たり数コースずつというものは、まだビジネスとして成立していないのである。

eラーニングの種類

一口にeラーニングと言ってもさまざまな種類がある。
インターネットを通してサービスを提供する形。あるいは、企業の中にイントラネットのeラーニングサーバを置いてやる形。
ビジネスとしては、コンテンツを提供するのか、プラットフォームを提供するのか。
さらに、同期型、つまりライブでやるのか、非同期型か。遠隔教育型か教材型か。それらのブレンド型か。
eラーニングの中に人の役割を組み込んでいるかどうか、等々、いろいろなものがある。
それぞれがそれぞれの内容と対象によって意味を持ってくるので、どれでなければいけないということはない。教育の範囲は大変広いので、それぞれ適したものを使わなければいけない。そこでミスマッチすると、失敗する。
ネットラーニングでは当初から「プラットフォーム」「コンテンツ」「サービス」の3つ全てを提供している。プラットフォームやコンテンツを売って終わりではなく、そこをスタートとして、研修の結果まで責任を持つ形のサービスを提供している。

基本的特徴

eラーニングの基本的特徴ということでよく比較されるのは集合教育である。ここからも明らかなように、eラーニングの特徴は個別教育であるという点にあり、そこが大変重要なのである。
2点目は、大変大規模に、数万名といった人数を相手に一遍にやれる、という点である。アメリカの大手企業では、これを導入の第1の理由に挙げるところもたくさんある。
そして教育でのOne to Oneであるという点である。学習履歴が取れるということがeラーニングの特徴であり、これを個別教育に活かせる。
ただし、一般的に言えば、膨大な学習履歴を誰も見ていない。仮に1,000名が受講したときに、それを見て指導するということができていない。ネットラーニングでは担任制チューターを置き、1人1人を担任の先生が全部見ている。そして個別指導してOne to Oneの効果を上げるよう努めている。
あとは、シミュレーションなどによる高度な教育――MBA取得教育など――にも向いている。スキル教育にも最適である。
学習効果を測定しやすいというのもeラーニングの特徴として大変重要なことである。

基本的特徴2――学ぶことと習うこと

「学ぶ」ことと「習う」こと(あるいは「稽古する」こと)はまったく異質なことである。日本語では2つの言葉を合わせて「学習」と言っているが、「学ぶ」は知識、「習う」はスキルである。
スキルには実習が必要である。車の運転は、実際にハンドルを握らないと、絶対に身につかない。教室で車の構造を教え、ハンドルを教え、ということだけでは運転できない。したがって、スキル教育は個別教育となる。
そこではラーニング・バイ・ドゥーイング、やらせながら身につけるということが大変重要になる。過去の小・中学校では、「習う」部分は、練習問題を解いてくるとか、九九を覚えてくる、というように宿題にしていた。これは集合教育には適さないからで、そういう意味では、スキル教育にはeラーニングが最適である。それに適したeラーニングを工夫して作らなければいけない。

基本的特徴3――双方向性

一般には動画や音が出ることが、従来の本による学習との違いと言われているが、そうではない。
eラーニングの一番の特徴は、ネットであること、双方向であること、それを活かしているところである。
しかしビジネスモデルによっては動画等に重点を置きすぎ、必ずしもネット教育の良さを本当には引き出していないところも多い。デジタルであること、ネットであることの利点を使い、今までの教育とは少し違う、あるいは根本的に違うものが提供できる。
しかし、まだ始まったばかりなので、まだ模索している段階である。今まで出てきたeラーニングは、全体を100としたら2か3のレベルしか出ていない。まだまだ可能性を秘めている。
今、eメールなしのビジネスが想定できないくらいにeメールは使われているし、依存している。そのうちeラーニングなしにはビジネスができない、eメール以上に依存する、というような状況が間違いなく来ると思う。アメリカではもうそれが起きつつある。

企業内での使われ方と評価

図3は、企業でのネットラーニングの使われ方に関するデータである。
企業教育なので、大半が時間内に行われている。中には勤務時間外にやる形になっている会社もあるが、それら全部を含めたデータである。勤務時間内にうまく組み込み、1回20分くらい、1日2回学習しているのが現状である。 
評価では「大変役に立った」、「役に立った」を合わせると、90%という結果が出ている。
今後のスキルアップについて、「どんなものを使ってやっていきたいか」というグラフは、時間の経過とともに受講生の反応が変わってきていることがよく見える。サービスにそんなに違いがあるわけではないが、eラーニングへの評価が急速に高まっている。
2000年4月頃は、受講者の24%がやはり本や雑誌のほうがいいと言っていた。ところが今、同じ問いに対して、そういう人は7%に減っている。こういう受講生側の受け止め方が変化しているということが、データとして非常に鮮明に出ている(図4)。
評価は、学習した人たち全てからアンケートを取ってやっている。大変シビアな意見も来るが、全てに応えるという考えでやっている。そして、ASPのサーバにコースを置いているので、即日変更も可能であり、ほぼ毎日コースは変え続けている。

▼図3 企業でのネットラーニングの使われ方
図3 企業でのネットラーニングの使われ方

▼図4 今後のスキルアップについて
図4 今後のスキルアップについて


制作のノウハウ

「Wordのeラーニング」を例にとると、画面の上にいろいろな項目があり、「目次」というところをクリックすると目次の内容が開く。そこから「Wordを始めよう」という学習を選ぶと、そのページがスタートして、Wordの起動と終了を実際に練習して学ぶことができる。音声ガイドはオンにしたりオフにしたりできる。まちがったところを押すと、正しいところを教えてくれる。
教室でやると、先生についていけない人が出てくるが、これだと1人で何回でもやり直すことができる。
eラーニングにはこのような練習タイプのものもあれば、テキストを中心にいろいろな学習をするもの、プログラムを組むコースでは、プログラムを書かせて人が添削指導するというものもある。
したがって、このコースは何を目的にしているのかをベースに考えて作っていかなければいけない。これは知識を教えるのか、スキルを教えるのか、あるいは行動変革のためのeラーニングをやりたいのか、と。
コース制作のノウハウは、教育ノウハウがベースだが、同時に書籍の編集ノウハウが大変有効だと思う。むしろ、出版、印刷業界に近いところにあると思っている。
そして開発には、まず設計書が必要である。誰をターゲットにして、コースを学習する前提知識は何で、学習した結果、到達はどうなるということから始まり、徹底的な設計、それからコースごとの企画、制作スケジュール、プロジェクト管理。品質の管理も大変重要である。
ネットラーニングでは、コースができた後、必ずモニタを入れる。一定期間、一定数のモニタに学習してもらい、それで内容を仕上げた上でリリースしている。

技術について

技術的には、ネットラーニングではすべてをXMLで作っている。
印刷業界では、印刷物を瞬時にeラーニングに変換できないかということに関心があるだろう。書籍をベースにした場合、教材にするにはさらに工夫は必要だが、できるかどうかで言えば、できる。
ネットラーニングでは書籍をコンバータにかけて、一瞬にしてコースに仕上げるということをやっている。
それとは別に、ページの作成では、幾つかのアルファベットのタグを書き込むだけででき上がる。大変単純で、短期間に低コストでコースが作れる。また、XMLを使っているので、印刷物とは大変親和性が高い。
また、ネットラーニングではASPという形で、インターネットを使ったサービスの提供もしている。ここには開発サーバ、テストサーバ、運用サーバと、このほかにも幾つかの段階があり、全体で20台近いサーバでトータルの運営をしている。

使われるeラーニングのために

通信教育でもそうだが、使われるeラーニングにするにはどうすればいいのかということが、今、非常に大きな課題になっている。
その中で、使われるeラーニングを目指した2つの流れがある。
一つはブレンドで、これは教室とうまく組み合わせるタイプ。
もう一つはマルチメディア。これは動画を使えばより使われるようになるのではないかという考え方。
しかし、この2つとも解決策ではないと考えている。教室にした途端に、eラーニングの良さが随分制限される。また、マルチメディアはネット教育の本質ではない。使われるeラーニングになるためには、ネットを活かすことを中心にすべきと考えている。

eラーニングビジネス成功のために

eラーニングのビジネスのポイントは、いかに高収益を継続的に確保する競争上の位置を獲得するかにあると考えている。一時期だけ高収益を上げるということはできるかもしれないが、継続的に確保するには、そういう競争上のポジジョンをとらなければいけない。それがビジネスモデル作りに深く関わる。
コンテンツを中心に考えた場合、まず販売対象を選ばなければならない。個人なのか、企業なのか。プラットフォームの選択は、インターネット型かイントラネット型か。どんなeラーニングマネジメントシステムをベースにするのか。コース開発は、IT分野をやるのかどんな分野をやるのか。販売方法は、直販ベースでやっていくのか、販売網に乗せるのか。
eラーニングに必要なノウハウは非常に多く、そのノウハウをどのように獲得するのかということも重要である。また、どんなスケジュールで具体化していくか、どんなチームを社内で作るのか……と、いろいろあるだろう。
ただ、新しい分野なので、たかが知れている。たとえば、マラソンをしていて先頭との差が非常に開いていても、いったん全員が停止して、いきなり方向が右に90度変わってしまうと全員一線にスタートラインに並んでいる。現状は、そんな状況に近い。真似をしないで考えることによって、いつでも先頭に立てると思っている。

出版、印刷業界への影響

eラーニングは、大変巨大な影響を導入企業にも及ぼすが、周辺業界にも及ぼす。
出版業界はeラーニングによって、想像を超えた影響を受けるだろう。印刷業界にも大きな影響がある。eラーニングに取り組むか取り組まないかということを抜きにしても、今後eラーニングが急激に発展していけば、印刷業界のビジネスそのものに大きな影響を及ぼすことは間違いないと考えている。

VEHICLE Vol15,No.1 P13~P17より抜粋