NetLearning in News ~掲載記事一覧~

日本経済新聞 2013年(平成25年)5月30日 27面

※以下のインタビュー記事のなかで、ネットラーニングが主催した「教育問題研究会」の取り組みや、当社が日本
事務局をつとめる英国国立オープン・ユニバーシティについて紹介されました。

辛言直言:大学の「失われた20年」 IT活用し国際競争力を
大和総研理事長  武藤 敏郎氏
 

 経済のグローバル化が進む中で日本の教育システムの立ち遅れが指摘されている。大和総研の武藤敏郎理事長は「日本の大学が国際競争力を高めるにはIT(情報技術)を活用した教育方法の見直しが必要だ」と訴える。東京大学への進学者が最も多い開成学園の理事長兼学園長も務める武藤氏に教育制度改革の進むべき道を聞いた。

大学の「失われた20年」

――日本の大学教育に注文があるそうですね。

 「失われた20年といわれるが、教育分野も同じだ。ベルリンの壁が崩壊し、欧州でユーロが導入され、新興国が台頭するなど経済は一気にグローバル化した。しかし日本は内向きの処理に追われ、変えるべきものも変えられなかった。その象徴が教育システムだ」
 「世界の大学ランキングを見ても、東京大学は27位、京都大学は54位と評価は高くない。日本の企業に就職するには意味があっても、海外に優秀な人材を輩出しているとはいえないからだ」

数万人に授業

――海外の大学はどう変わったのでしょう。

 「欧米の大学では『反転授業』という考え方が浸透してきた。すなわち知識を得る学習はインターネットを使ったeラーニングで行い、教室では徹底的に議論する。ソフトウエア時代を迎え、創造力や表現力を高めるという狙いだ」
 「一方、日本は昔ながらの教室学習で、研究活動には熱心でも教えることに情熱を傾ける先生は少ない。それは教職というのが一種の独占事業で、競争原理が働いていないためだ」

――欧米の大学では授業が「オープンコースウエア(OCW)」としてネットで公開され、人気のある先生に学生が集まっています。

 「ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が有名だが、米国ではネットで数万人規模を相手に授業を行う『MOOCS(ムークス)』と呼ばれる教育が広がっている。さらにネットの双方向機能を持ち込むことで、受講者の間に価値の共有を促している。日本でも東大などが授業をネットで公開し始めたが、残念ながら受講者はそれほど多くないようだ」

――OCWでは単位を取得できませんが。

 「私は旧大蔵省時代に文教予算を長い間、担当した。その時に作ったのが放送大学だ。山の中でも教育を受けられるということで、成果は十分あったと思う」
 「しかし放送は一方向でしかない。ネットを上手に使えば、先生に質問したり、受講生同士で情報交換したり、もっと高度な学習が可能になる。単位が必要なら別途、試験を行えばいい。多くの人が高等教育を受けられる利点に着目すべきだ」

――では日本でeラーニングを広めるにはどうすればいいでしょう。

 「ひとつは特区制度の活用だ。日本の教育は対面が基本で、授業日数が一日でも足りなければ単位は認められない。だが、それでは、いつになっても遠隔学習は進まないだろう。まず成功例を作り、それを広めていくことが重要だ」

――そうした新しい教育を広めるために研究会を開いたそうですが。

 「2011年夏から約2年間、『教育問題研究会』という勉強会を続けてきた。早稲田大学の奥島孝康元総長、経済同友会の前原金一副代表幹事、企業からはネットラーニングの岸田徹代表など、教育に関心の高い人が多方面から集まった」

 「岸田氏は自分で実際に受講したという英国のオンライン大学『オープン・ユニバーシティ』を紹介していた。日本でもそうした最新のITを活用した教育方法を導入すべき時だ」


経営・教育を分離

――教育分野のIT活用では何が重要ですか。

 「電子教科書の導入が議論されているが、簡単に使えるタブレット端末を活用し、一人一台体制を早く確立することだ」

 「大学における教育と経営の分離も必要だ。教授会が大学人事まで左右するようでは変革は進まない。大学は教職員の職を守るところではなく、国際社会で活躍する意欲のある若者を育てる場所だ。秋田県の国際教養大学では英語で授業を行い、多くのグローバル人材を輩出している」

――開成学園でも改革を進めているのですか。

 「理事長になって5年目だが、校長の尽力により、英米の大学に開成から直接留学する生徒が数人出てきた。彼らには、海外に行く以上は就職も海外ですることを覚悟してほしいと言っている」

 「親としては、せっかく開成に入れたからには東大に入ってほしいという気持ちが強い。日本の教育の国際化が進まないのは、就職や採用のやり方、人材の活用方法など、社会や企業の側にも問題がある。日本の大学ももっと外国人学生を受け入れるべきだし、そうしないと日本の大学の国際評価も上がらないだろう」

―聞き手から―  「翻訳授業」時代遅れ

世界の大学ランキングには様々なものがあるが、総じて日本の大学の評価は芳しくない。英タイムズ紙から発したタイムズ・ハイアー・エデュケーションによると、上位100位に入るのは27位の東京大学と54位の京都大学だけ。次にランクされる東京工業大学は128位だ。

 ひとつには言葉の問題が大きい。上位の顔ぶれを見ると、米国や英国、カナダなど英語圏の大学が圧倒的に多い。中国の北京大学や清華大学の順位は日本とほぼ同じだ。世界の共通言語として、英語で学んだ方が研究や就職活動などに有利というわけだ。

 実はこの20年間に世界に広がったインターネットがその流れを加速した。植民地時代から教育やビジネスに英語を使う香港やシンガポールなどは、ネット上の英語文献情報をいち早く吸収、IT革命を先取りした。そうした理由から大学の評価も高い。

 さらに高速通信網の普及で「MOOCS」など世界中どこからでも受講できるネット上の大規模授業が広がれば、こうした大学格差はもっと大きくなるに違いない。

 日本の大学教員はこれまで欧米の先進的な知識や技術を日本語に訳して伝えることで仕事が成り立ってきた面がある。しかしネット時代にはそうした「翻訳授業」はもはや意味をなさなくなるだろう。

(日本経済新聞 論説委員 関口和一)