公開日:2025/12/11(木)
「自分のコピーがいたらいいのに」と思ったことはありませんか?
自分の記憶や考え方をそっくりそのまま持った存在が、同時に別の場所で働いてくれる――そんな夢のような発想が、今AIの進化によってデジタル上で実現しつつあります。
近年にわかに注目を集めているのが、米シリコンバレー発のAIスタートアップViven(ヴィヴェン)社が提唱する「人のデジタルツイン」という概念です。
従来のデジタルツインは、主に製造業や建設業における設備・機械の仮想コピー(物理→仮想)を意味していました。しかしViven社のアプローチはまったく新しいものです。彼らは、人(社員やチーム)の知識・経験・意思決定を仮想的に再現する「人のデジタルツイン」を構築しています。同社のプラットフォームでは、社員1人ひとりの行動データ、判断パターン、意思決定の根拠をAIが学習。その結果、「その人ならどう考えるか?」を再現できるデジタル上の分身を生成するのです。いわば職場にもう一人の自分が常駐するような、そんな未来像が現実味を帯びてきています。
多くの企業がDX推進の中で直面している課題があります。それは、
です。Viven社のデジタルツインは、社員のメール・会議録・チャット履歴・ドキュメントなどを、機密は保持したまま安全に解析。その人が日々どのように考え、判断しているかという暗黙知・経験知をAIがモデル化します。これにより、以下のような新しいナレッジマネジメントが可能になります。
過去のプロジェクトでの判断の流れや知識を、デジタルツインを通して後任者が前任者不在でも学べる。
部署単位の判断データを統合し、組織全体の意思決定スピードを大幅に向上。チームがまるごと入れ替わったとしても、集合知は資産として残すことが可能に。
これまで属人化して埋もれていた知見を、組織全体の資産として共有・再利用する――
まさに人の知をデジタルに拡張する時代が始まっています。
デジタルツインの強みは、知識をただ保存することではなく、LMS(学習管理システム)との連携を通じて学びの循環が実現する点にあります。たとえば、Viven社のプラットフォームを企業のLMSと連携させると、次のような新しいナレッジマネジメントの形が生まれます。
従業員のメールや会議記録、日報などをAIが解析し、そこで得られた知見や判断基準をLMS上のeラーニング教材として自動生成します。これにより、現場で日々生まれているリアルな知識を、最新の教材として社内に即時展開することが可能になります。つまり、従来なら数カ月単位で更新されていた研修教材が、AIによってリアルタイムに進化するということです。これらの多くはOJTでも活用が可能になるでしょう。
受講者がeラーニングで学んだ内容は、LMS上で記録・分析されます。そこにデジタルツインの行動データを重ねることで、学習内容が実際の業務判断にどう活かされているかを可視化することができます。たとえば、ツインが「この状況ではこう判断する」と提示するシナリオと実際の社員の行動を比較することで、学びの定着度をこれまでとは別の角度からも定量的にフィードバックできるようになります。
LMSに蓄積された受講履歴とデジタルツインが持つ知識モデルを組み合わせることで、「この社員は次にどのスキルを補うべきか」「どの判断領域で経験が不足しているか」をAIが自動で分析。LMSが各受講者に個別最適化されたeラーニングコンテンツを提案し、パーソナライズされた一段上のリスキリングが自動的に実現するのです。
このように、デジタルツインとLMSが連動することで「学ぶ」→「実践する」→「結果をフィードバックする」→「再び学ぶ」という自律的な学習のループが構築されます。これは単なる教育DXではなく、AIによる「知の循環型LMS」の実現とも言えるでしょう。この仕組みを活用することで、企業は属人的なスキルを組織全体に還元し、人材育成・リスキリングのスピードと質を同時に高めることが可能になります。
この「人のデジタルツイン」は、単なる業務効率化のためのAIツールではありません。
むしろ人材育成・教育・リスキリングの分野に大きな革新をもたらす可能性を秘めていると言え、教育・人材開発の視点では次のような応用が見えてきます。
従来、熟練者の知見や判断基準はOJTの中でしか学べないものでした。しかしデジタルツインを用いれば、ベテラン社員の思考プロセスを再現し、新人や異動者が「この状況で先輩ならどう判断するか」を仮想的に体験しながら学ぶことが可能になります。いわば生きた教材が社内に存在する状態です。
eラーニングで知識を学んだ後、実務でどう使えばいいのかが課題になることがあります。デジタルツインを導入すれば、受講者は実際の現場で困ったときツインに質問し、過去の成功事例や判断例を即座に参照することが可能になります。これにより、学び→実践→定着というサイクルが自然に循環し、教育効果が最大化するのです。
優秀なリーダーの意思決定プロセスや価値判断の背景をツインとして再現し、新任マネジャーが「リーダーの思考を追体験」する。これにより、単なる知識伝達を超えたリーダーシップ教育の個別最適化が実現します。これこそがAIと人材開発の融合がもたらす新しいリスキリングの形です。
Viven社のアプローチは、「AIを人に置き換える」ものではなく、人の知識や判断を「拡張し、つなぐ」ことを目的とした仕組みです。組織の中に眠る膨大な暗黙知をAIが可視化し、それを誰もが活用できる学びの資産として流通させる。これはまさに、AIと教育の融合による「人材の拡張」と言えるでしょう。
ネットラーニングはこうした先進技術の動向を踏まえ、今後もeラーニング、LMS、AI分析を組み合わせた学びの新しい形を追求してまいります。
今回のブログでは、新しく登場したAIによるデジタルツインについて以下の内容をお伝えしました。
実は私自身が一卵性双生児で、ある意味リアルツインです。外見はそっくりですが、性格の違いからよく喧嘩をしました。今もたまにします(笑)。その根底にある争いは、親の注目や優位な立場を奪い合うライバル心、「自分に構ってほしい」という気持ち、そして感情の未熟であったと思います。
兄弟が身近で一番のライバルであり、心を許せる存在であることに起因しますが、このような「争い」までを、今後デジタルツインがどこまで再現・トレースできるのか。デジタルツインが一番のライバルになる日がくるのか、想像をめぐらせることは非常に興味深く、SF小説の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の世界を空想して楽しんでいる自分がいます。