公開日:2026/01/15(木)
「今年もまた、この季節か……」
人事部から届く「全社コンプライアンス研修受講のお願い」のメールを見て、ため息をついた経験はないでしょうか。
現場は日々多忙です。
「仕事を中断して動画を見るの?」
「どうせ当たり前の話でしょう?」
こうして仕方なく形だけ受講されたコンプライアンス研修は、「受講率は100%、でも意識変化はゼロ」。最後の確認テストの回答は生成AIに聞いて入力、などという残念な結果に終わりがちです。
重要なはずの研修がなぜ現場で機能しないのでしょうか。
その背景には、研修内容だけでなく組織全体の構造的な課題が存在するケースがあります。
多くの企業で見られる4つの原因を探っていきましょう。
最も分かりやすい原因は、内容が現場に刺さらないことです。
よくある例がこちらです。
これでは、「で、結局自分は何に気をつければいいのか?」が腹落ちしません。受講者からすると法令順守はわかりますが、自社や自身にあてはまるような具体的な守る理由・守る価値、および守れなかったときのリスクが理解できなければ、行動変容は起きづらいのではないでしょうか。
また、受講者側の状況や心理も見逃せない要因です。
この状態では、どんなに質の高い研修でも効果は限定的です。
実は筆者自身も経験があります。コンプライアンス研修の受講開始を告げるメールが事前の説明もなく突然届き、受講期限までにリマインドメールを何度も受け取ることになりました。多くの業務をこなす中、正直なところ少なからぬストレスを感じました。
さらに問題なのが、「自分は大丈夫」という正常性バイアスです。多くの人は、自分自身が不正やハラスメントの当事者になるとは思っていません。この油断がリスク感度を鈍らせているのです。
そして、最も深刻かつ研修の効果を根本から無力化してしまうのが、組織風土そのものの問題です。
コンプライアンス研修では、「コンプライアンスを最優先に行動しましょう」「ルールを守ることが会社を守ることにつながります」というメッセージが発信されます。しかし、ひとたび研修が終わり現場に戻ると「とにかく数字を作ろう」「多少無理しても納期を最優先」といった真逆の空気が発せられてはいないでしょうか。
このような本音と建前のダブルバインド(二重拘束)は、研修の効果を無力化しがちです。
また、「おかしい」と思っても声を上げられない心理的安全性の低い職場では、知識は行動に変わらないのも事実です。
コンプライアンス研修は多くの場合、年1回の「点」です。本来であれば、やりっぱなしにせず研修効果を高めるため、前後にフォロー体制のある「線」での取り組みが推奨されます。
取り組みの例はこちらです。
こうした活動を行わない場合、エビングハウスの忘却曲線の通り、内容はすぐに忘れ去られます。多少負荷はかかりますが、研修を日常業務につなげる仕組みを一工夫、二工夫することが重要ではないでしょうか。
上記にあげたような状況は特定の企業に限ったことではありません。
本来コンプライアンスとは、
という重要な役割を担うメカニズムだと言えます。
しかし現代の資本主義社会では、成果や効率が強く求められる一方で、「違法でなければ問題ない」「規則に書いていなければ許される」といった発想に陥りやすく、ルールや制度だけでは行き過ぎた利益追求を十分に抑えきれないという限界が顕在化しています。判断が分業化・組織化されることで、個々人の倫理や責任感が希薄になりやすいという点もその一因です。
だからこそコンプライアンスを単なる規則遵守に留めるのではなく、企業文化や経営哲学の中核に据え、従業員一人ひとりの「インテグリティ(誠実さ、高潔さ)」を高めていくことが、現代資本主義の限界を超える鍵になると考えられます。
その本質を見失い、「研修を実施すること」自体が目的になってしまっていないでしょうか。
コンプライアンス研修が「受けただけ」で終わってしまう最大の理由。それは、企業側、つまり経営層や人事の目的が、いつの間にか「研修を実施したという実績作り=アリバイ作り」にすり替わっているからだと言えるのかもしれません。
「全社員に受講させました」というポーズのために研修を行うとき、社員はそれを敏感に感じ取ります。研修の本来の目的は、「組織のリスクを減らし、健全な企業文化を作ること」。そのためには、研修の内容を工夫するだけでは不十分であり、研修実施に向けた全社的な一連の流れを設計することが重要だと考えます。
設計の例:経営トップのコミット→事前アナウンス→研修受講→フォローアップ
コンプライアンス研修が形骸化する最大の原因は、「受講させること」がゴールになってしまっている点にあります。
これを打開し、本当の学びにするために
以上の5点を意識して設計することで、コンプライアンス研修は「受講しなければならないイベント」から行動を変容する学びの一環へと大きく進化します。
「全社員に、継続的かつ確実にコンプライアンス意識を浸透させたい」
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