LMS×AIが示す2つの設計コンセプト:【Build in AI(組み込む)】or【Build on AI(基盤とする)】を理解することで見える学びの未来

公開日:2026/02/10(火)

筆者:岸田 努(株式会社ネットラーニング 代表取締役社長)

1分で読める!この記事で分かること

この記事では、

  • HRTech業界のアナリスト、ジョシュ・バーシン氏が提唱する AI活用の2分類
  • それを eラーニングプラットフォーム/LMSに置き換えた考察
  • リスキリング時代に求められる学習基盤

を分かりやすく解説します。

AI活用には「機能追加」型と「基盤」型がある

HRTechの第一人者ジョシュ・バーシン氏が、企業向けソフトウェアにおけるAI活用を大きく2つに分類しています(*)。重要なのは、AIを「便利な機能として後から付け足している」のか、それとも「サービス全体を支える土台(基盤)にしている」のかという違いです。この違いを押さえることで、企業が新しいテクノロジーを導入したあと、どれくらい深く使いこなせるのか、そしてその効果がどのくらい長く続くのかを理解しやすくなります。
本記事ではそれぞれのタイプの具体例を挙げながら違いを整理し、これからの時代のニーズにどのように関連するかを考察します。

ジョシュ・バーシン氏によるAI活用2分類

①「機能追加(AI Add-on)」としての活用

既存のソフトウェアや業務フローはそのままに、特定の作業を効率化するためにAIを「後付け」する形です。

具体例
文書作成ソフト(WordやGoogleドキュメント等)
「文章を要約する」「トーンを変更する」ボタンが付く
既存の採用管理システム
蓄積された履歴書データに対して、AIが特定のキーワードでスコアリングを行う機能が付く
カスタマーサポート
従来のFAQ検索の補助として、生成AIのチャットボットを配置する
特徴
  • 導入が容易で即効性があるが、「AIがなくてもシステム自体は成立する」ことがポイント
  • 追加された機能は、あくまで人の作業のサポートに留まる

②「基盤(AI-First / AI-Native)」としての活用

こちらはプロダクトの設計段階からAIが中心に据えられており、AIがなければそのサービスや業務プロセス自体が成立しないAIを「大前提」にした形です。

具体例
タレント・インテリジェンス・プラットフォーム
単なる社員データの検索ではなく、搭載したAIが多数のキャリアデータから「次にこの社員が習得すべきスキル」や「隠れた適性」を予測・提案するように構築されているシステム
自律型営業エージェント
AIが自律的にターゲット選定・メール作成・アポ調整までを行うワークフロー。人の手によるリスト作成は不要になり、人間は「最終的な交渉」だけに集中することができる。
パーソナライズされた学習プラットフォーム
受講者の理解度をリアルタイムで分析し、AIが即応的にカリキュラムを組み替えていくプラットフォーム。従来のような割当型の固定のコースが存在しない。
特徴
  • UI(ユーザーインターフェース)の形を、従来の「メニューを選んで操作する」ものから、「AIと対話しながら結果を出す」ものに変えている
  • 仕事の進め方そのものを変容させる

2つの違いを整理すると以下のようになります。

比較項目 ①機能追加(AI Add-on) ②基盤(AI-Native)
目的 既存業務をスピードアップする 業務プロセスを再定義・再構築する
データの扱い 既存データの一部を利用する 全てのデータがAI学習の源泉になる
競争優位性 一時的(他社もすぐ導入できる) 構造的(データとAIの循環で強化される)

eラーニングプラットフォームに置き換えて考える

前章の分類をもう少し噛み砕いた言葉に置き換えて整理し、今後のeラーニングプラットフォームにおけるAIの活用を考えていきたいと思います。

Built in AI(AI Added-on)
既存システムにAIを追加
Built on AI(AI-Native)
AIを前提にゼロから設計

①Built in AI(AI Added-on)型LMS

これは、従来型LMSにAI機能を追加したモデルです。

該当例

  • チャットボットによるQ&A
  • レコメンド機能
  • 自動要約、簡易検索

ジョシュ・バーシン氏は、これを「レガシー基盤の上にAIを載せている状態」と定義しています。レガシーはやや強い表現ではありますが、同氏はこの従来のLMSが持つ機能と設計には以下のような限界があるためだと指摘しています。

  • 学習構造そのものは変わらない
  • コース中心・修了管理中心
  • リスキリングへの即応性が低い

現状、多くのeラーニングサービス提供ベンダーがこの段階にあり、「機能追加」型ではAIが持つ潜在力を存分に発揮できているとは言いきれません。

②Built on AI(AI-Native)型プラットフォーム

一方、ジョシュ・バーシン氏が「未来の市場を創る」と位置づけるのがこのタイプのプラットフォームです。その特徴は以下のようになります。

  • LLM(大規模言語モデル)とニューラルネットワークが前提である
  • UIはメニューではなく「対話型」である
  • データ構造・ロジックすべてがAI中心

これは従来のLMSとはもはや機能・設計から異なる、まったく別物のeラーニングプラットフォームです。AIを「基盤」にしたこのBuilt on AIの構造では、スキルデータ/業務データをLLM解析します。それをベースに対話型UI(プロンプト)で学習者に提供するサービスの一例がこちらです。

  • 学習コンテンツを動的生成する
  • 学習順序を最適化する
  • 評価・改善を自動化する

リスキリング時代にLMSは何を再設計すべきか

これら2つのプラットフォームを比較したとき、違いはあらゆる項目で明確です。

項目 ①Built in AI ②Built on AI
基盤 既存DB・ERP LLM・AI
UI メニュー型 対話型
役割 学習管理 個別最適化・伴走
将来性 教材中心の改善・拡張 学習体験の再設計

リスキリング全盛とも言える昨今、よりスムーズに高い水準でリスキリングを推し進めるためにLMSに必要なのは、現在の「管理ツール」から「思考支援ツール」への進化です。

思考支援ツールでは、受講者が対話を通して個別最適に学ぶことが可能になります。こうしたLMSの再設計を進め、リスキリング時代をさらに支える最適な学びのプラットフォームにしていくことが、当社のような教育・研修ベンダーの使命なのかもしれません。

まとめ

  • ジョシュ・バーシンはAI統合を2段階で整理している
  • eラーニングの本質的進化は Built on AIという設計に移行
  • AIネイティブLMSがリスキリングを加速
  • 学習基盤は「管理」から「伴走」へ

筆者あとがき

今年、私は55歳になりました。若い頃を思い返すと、学びとは「先生から教わるもの」「先輩の背中から盗むもの」でした。わからないことがあれば、書籍を探し、研修に通い、時間をかけて身につける。学びには常に“距離”がありました。

ところが今はどうでしょう。AIがあれば、わからないことはすぐに聞けて、整理もしてくれて、理解の補助までしてくれる。まるで“すぐ隣にいる伴走者”のように、学びの距離が一気に縮まった感覚があります。

その一方で、「便利になった」だけではない変化が起きています。AIを後付けで使うだけでは、従来の学習構造(コース中心・修了管理中心)は変わりません。ですが「Built on AI」という考え方では、学びそのものが“対話・探索・最適化”へと根本から設計し直されます。

この変化は、55年生きてきた私にとっても驚きであり、同時に大きな希望でもあります。

学びが「管理」ではなく「伴走」へ、そして「受け身」ではなく「対話」へ。学習者が自ら考え、自ら伸びていくための環境が、今まさに実現可能になってきました。

ネットラーニングは、テクノロジーを追いかけるだけではなく、“学びの本質”を守りながら、新しい時代にふさわしい学習体験を皆さまと共に創っていきます。

この記事が、これからの学びを考えるヒントになればうれしく思います。

筆者プロフィール

岸田 努

株式会社ネットラーニング 代表取締役社長

外資系情報サービス企業で大手企業の情報システム導入を担当。2003年ネットラーニング入社以来、eラーニング市場作りと開拓を行い大手企業中心にコンサルティングに従事し多数の研修を成功に導く。2021年代表取締役社長就任。一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム、一般社団法人日本オンライン教育産業協会で理事 副会長を務める。

【保有オープンバッジ抜粋】

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