NetLearning in News ~掲載記事一覧~

日本工業新聞  2002年(平成14年)10月9日 7面

ITに賭けるトップランナー【34】
ネットラーニング社長 岸田徹氏 =下=


産業再生のかぎは教育

米においつけ
米国のeラーニング市場は1兆5千億円、関連企業は5千社を超える。グローバル企業ではeラーニングが企業のあり方を変えるほどの強力な役割を果たしている。岸田はeラーニングによる社内教育研修を「戦略的企業研修」と呼んでいる。

日本でも盛んになりつつあるが、米国の市場規模とは比べ物にならない。逆の見方をすればこれから発展する可能性があるということでもある。

「日本はeラーニングビジネスが少なすぎる。アメリカに相当後れをとっている。こうした現状を打破していきたい。このビジネスの成功事例をたくさんつくって参入する企業を増やし、アメリカのように1千社を超える状況をつくりたい」

ネットビジネスの最大の分野は教育。日本の産業界再生の鍵は教育にある、というのが岸田の持論。新規参入が増え競争が激化することをも「最高ですよ」と笑いながら歓迎する。トップを走っているという自負があるのだろう。

「eラーニングといってもインターネットで完結するのではなく、人が介在するリアルなサービス業です。うちはいいユーザー企業に恵まれ、鍛えられてきた。より質の高い物をつくるには競争が必要です。多くの企業が良いeラーニングを採用して変革再生につなげていけばいい」

単に教材を提供するだけのビジネスモデルなら簡単にまねをされ、競争が激化してどんぐりの背比べとなる。「サービス業は同じことをやればいいと思っていたら失敗する。当社のモデルは簡単にまねができそうに見えるが、そうはいかない」という。

「非常に総合的なノウハウが必要です。コースそのものも自社で作っているし、基盤となるラーニング・マネジメントシステムも自分のところで作っている。これだけのものを自前でやるのはけっこう大変です」

大学教育進出も
先進的な大学ではeラーニングシステムを利用するところが出てきている。ネットラーニングでも将来は小中高、さらに大学教育への進出を考えている。「ただし私のプランに意味があることが明確になれば、です。二番せんじはやりたくない。既存の教育者にしっかりやっていただければいいだけのことです」

コンテンツの各種講座はOEM(相手先ブランドによる生産)や代理店販売も行っているが、基本的に直販。直接企業を訪問してユーザーを開拓している。数字の変化が猛烈に早いこともあって、売り上げなどは公開していない。株式公開が具体的な日程に上がった時点で、経営上のさまざまな数字を公開することにしている。

岸田はもともと研究者を志していた。そのまま東大に残っていれば学者になっていたかもしれない。経営と学問はすべてが異質の世界。「本質的なことを抜きにして、現状に対する弥縫(びほう)策ばかりやっている経済学者は困るなと思う。私がもし学者になっていたら、もっと明確にやれるのではないかという思いはある」という。長引く不況に有効な指針を打ち出すことができない経済学者たちにいらだちを感じているようだ。

島巡りが趣味。休日は完全に仕事を忘れ、妻同伴で各地の離島を旅する。「島の山に登っていろんな植物を観察したり、海で泳いだりするのが最高に楽しい」と、にっこり笑った。

=敬称略(ジャーナリスト 大宮和信)