NetLearning in News ~掲載記事一覧~

日経産業新聞 2012年(平成24年)10月11日 5面

ネットラーニング 「自由な社風」

「現在、グループ全体の女性社員の約2割が出産・育児休暇を取得中」と打ち明けるのはネットラーニングホールディングス(東京都新宿区)会長の岸田徹さん。
 高い取得率だが、「社員に恵まれているので残業もほぼない」と業務には影響が出ていない。「自由な社風が優秀な人材をひきつける。企業価値を上げ、競争力の源泉ともなる。」と考えは明確だ。
 女性役員の登用や外国人の雇用なども積極推進する。「ダイバーシティー(人材の多様性)の徹底が当社のやり方」と続け、社業だけでなく、働き方でも時代を一歩リードする構え。 異才の横顔 -理想の教育実現へ奔走 (ネットラーニングCEO 岸田 徹)

 「インターネットの力で教育に革命を起こす」――。ネットラーニング最高経営責任者(CEO)の岸田徹(70)は穏やかな中にも力のこもった口調で語る。通信回線が今ほど速くない時代にeラーニング事業を始め、約3800の企業・学校、のべ1600万人の顧客を持つ国内最大手に育てた。IT(情報技術)企業としては異色の遅咲きは、長年追い求めてきた理想の教育を実現するために今も奔走する。
 東京大学大学院で財政論を研究していた岸田は1973年、「人類の知的活動を未来に残す仕事をしよう」と大学を離れ、出版物の企画製作を手掛ける編集プロダクションを立ち上げた。40点を超す辞書をはじめ書籍や雑誌を幅広く手掛け、教育関係に強いプロダクションとして知られるようになる。
 一方でコンピューターとの出合いははやかった。77年、個人が使えるコンピューターの存在に着目し、米国で話題になっていたコモドール製パソコンを「何に使えるか分からない」まま輸入。風呂までプログラミングの教本を持ち込むほどのめり込んだ経験は、後の起業の糧になった。
 プロダクションとして順調に事業を広げていた90年、セコムの新事業責任者募集の新聞広告に目がとまる。セコム創業者で当時会長だった飯田亮に「いつまでも待つ」と説得されて入社を決意。「セコムラインズ」という小中学生向けのネット教育を手がけた。
 セコムの「新事業」とは「新規事業ではなく、世にない新しい事業をつくる仕事」。インターネットのない時代、岸田が手掛けたのはまさに新事業だった。セコムが警報などのセキュリティー用に整備していたネットワークを活用。教室内でパソコンを通じて学習するeラーニングの原型となるシステムを開発し、約7000校の顧客を得た。
 97年6月、飯田が引退を宣言。当時55歳だった岸田は尊敬していた飯田が一線を退くのを機に自身も退職し、あこがれの離島暮らしを始めるつもりだった。
 しかし仕事を離れてあれこれ見聞きするうちに、「インターネットが社会に大変革をもたらすのではないかと気づいた」(岸田)。教育分野では場所や時間の制約がなくなり、画像や映像を組み合わせることで記憶の方法も変わる。長年、教育の理想形を探してきた岸田は「ネットによる教育革命を実現できるのは自分しかいないと確信した」。98年1月にコムワーク(現ネットラーニング)を設立した。
 コースの開発やサービス形態を探る中、事業はなかなか固まらなかったが、提携を検討していた米ベンチャーが日本進出を見送ったのを機に独自でのサービス開始を決断。2000年4月に8コースでスタートした。毎月約10コースずつ追加し、最初の1年は四半期ごとに売上高が倍増。初年度に約1億円を売り上げた。
 岸田の信念は「教材ではなく教育の提供」。売りっぱなしではなく、学習が身につくまで責任を持つスタイルを重視してきた。ダイヤルアップ式のネット接続が主流の起業当時からサービスはクラウド型。学習状況をリアルタイムに把握しきめ細かくサポートする体制を築いてきた結果、90%以上の修了率を維持し続けている。
 現在はスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)など多様化するデバイスを利用し、いつでもどこでも学習できる環境の整備に力を入れる。学習記録は1つに統合し、どの端末からでも続けて学習できるコースを増やす。同時に交流機能やライブ動画を導入し即時性や双方向性を高めて学習効果を上げていく狙いだ。
 岸田はネットラーニングを、教育に恵まれない人がチャンスを得られる場にもしたいと考えている。「世界どこでだって、(社内研修に利用している)キヤノンと同じ教育を受けられる」(岸田)。近く海外でもサービスを始める計画だ。ますます広がる夢に、岸田が離島で畑作りに没頭できる日々はまだ遠そうだ。

=敬称略