NetLearning in News ~掲載記事一覧~

財界 2007年(平成19年) 5月15日号

[特集] 時代の先端を切り開くシニア企業家たち

資生堂から生まれた事業が独立――
今、ネットによる育児休業支援が大人気

 1985年に男女雇用機会均等法が施行されて20年以上が経過したが、その間も女性は産休を取りづらい職場環境が続いた。
昨年、「eラーニング」のネットラーニング社長・岸田徹氏が育児休業支援のための会社を設立、世間の好評を博している。

不安を取り除く事業

 「産休で会社との連絡が途切れてしまうと、会社で何が起こっているか分からなくなります。また、自分だけが取り残されているという心の不安も感じますから、会社との結びつきを維持して、かつ、その間いろんな勉強もして復帰してもらうために、新しく会社を立ち上げました」と語るのは、インターネットで学習する「eラーニング」大手、ネットラーニング社長の岸田徹氏。
 1942年生まれ、64歳の岸田氏は昨年11月、育児休業者の支援復帰事業を目的とした「wiwiw(ウィウィ)」という会社を設立した。今年1月の運営開始時は、120社あまりだった契約企業も、3月末で230社にまで伸び、需要の強さを物語る。
 この事業とはもともと、2001年に化粧品大手の資生堂が社員のために始めたもの。しかし、当初から反響が大きく、「昨年あたりから資生堂の一部署でやっていくだけではニーズに応えられないと。そこでこの事業を独立させようということで、5社ほどのコンペになり、当社と資生堂の一部出資という形で始めました」(岸田氏)と語る。
 サービスの内容としては、オンライン講座、インフォメーション、コミュニティーの3つがある。その中心となるオンライン講座は現在、20コースほどあり、英語や簿記などのコースが人気。
 また、最近の傾向として女性も管理職に近い方が増えているため「マーケティングやマネジメントの講座も開いてほしいという要望も多い」(wiwiw常務執行役員・小林紋子氏)という。
 2つ目のインフォメーションは、育児に関する基本的な言葉を集めた「用語辞典」や、「デイリーノート」といったページを開設。初めての育児で誰に聞いていいか分からないといった女性の心強い味方となりそうだ。
 3つ目のコミュニティーは、今、会社で何が起きているのかを掲示板で知らせるものや、会社の上司と直接メールをやりとりする「情報交換メール」といったサービスがある。
 この情報交換メールは、「今は育児休暇中だけれども、自分も会社の一員でいるんだという安心感を与え、また、上司が職場でその人の近況などを話すことによって、次に産休に入るかたへの安心感を与えることにもなる」(岸田氏)と、会社とのつながりを絶やさない工夫が続く。
 また、この4月より、新たなサービスが追加されることになった。その目玉が、24時間対応の電話相談サービス。電話1本で看護師、ケアマネージャーといった専門家から、場合によっては、医師、弁護士にまで相談できる。
 「不安を取り除くというのが1番。育児のこととか、夜中に赤ちゃんが急に熱を出したとか、ものすごく不安だと思います。そういうときに、すぐに電話で話ができることが安心につながると思います」(岸田氏)。
 「wiwiw」の料金体系は定額制をとっているため、いくつサービスを受けても料金は同じ。厚生労働省の外郭団体「21世紀職業財団」を通じて、国から助成金が出る仕組み。講座を修了、または8割終了後申請すれば企業の負担はほとんどない。
 また、新たな展開も生まれた。このサービスを採用した企業が、社員の採用に際して力を持ち始めた。岸田氏は「この会社はwiwiwのサービスをやっているから入社したという人が増えたんですね。これが、会社の売りになっているようです」と語る。
 女性の社会進出を促す、この「育児休業者の復帰支援事業」。先日、政府の経済財政諮問会議がまとめる労働市場改革案の中で、10年後の17年までに、25歳から44歳までの既婚女性の就業率を現在の57%から71%にするといった数値目標を示したことも追い風となりそうだ。
 このようなサービスが人気ということは、裏返すと実態としてまだ日本社会が、安心して子を産み、育児ができる環境が出来上がっていないということだ。
 資生堂が始めた一事業であるが、大手企業が始めたから社会に認知されたとも考えられる。
 日本を代表する企業には、社会の活力を引き出すことが求められる。今回のサービスもその目的に沿ったものと言える。

 働きたいと思う人がどんどん働けるような環境を整備するために、岸田氏は9年前、自己啓発の「eラーニング」の普及を目指して起業した。
 潜在的な力をいかに引き出せるか、そのためのインフラづくりの延長上に、今回の育児支援サービスがある。
 岸田氏自身は自らをどう高めているのか。そのヒントが週末にあった――

八丈島に自宅を構える意味

 週末は、東京都心から300キロ離れた八丈島の自宅に帰る岸田氏。1日4往復ある170人乗りのジェット機で40分、亜熱帯の植物が一面に広がる。岸田氏は、八丈島に住民票を移し、奥さんと4年前からこの生活を送っている。
 「島好きが高じて八丈島に移りました。八丈島は、黒潮のど真ん中にある島ですから、自然が強烈なんですね。海流は時速10キロ、太陽はギラギラ照りつけ、風が強い。また、雷が頻繁に落ちるので、電機製品が壊れないように雷が来たら、急いで電源を抜きます。島民はみんな雷保険に入っていますからね(笑)」と自然豊かな八丈島での生活を楽しんでいる。
 また、平日の東京都心と休日の八丈島の生活サイクルのよさについては「陸続きでないということ、あと景色が変わりますから、そこでスイッチを切り替えることができます」と語る。
 複数の会社を経営する岸田氏。60歳を過ぎてもなお、起業意欲が衰えないのは、オンとオフの切り替えをうまく行っているからかもしれない。

(~ネットラーニング社長でwiwiwの社長も務める岸田徹氏~ 写真省略)