学習体験をデザインするLXD(Learning Experience Design)

公開日:2023/4/12(水)

筆者:岸田努(株式会社ネットラーニング 代表取締役社長)

Learning Experience Design

Learning Experience Design(LXD)は、2007 年にオランダ人の Niels Floor新しいウィンドウで開く 氏が提唱した「学習者に効果的な学習体験の設計」に重点を置いた設計プロセスです。同氏は LXD を以下のように説明しています。

LXD は、学習者が希望する学習成果を、人間中心の目標指向的に達成できるよう学習経験を作るプロセスです。
(原文)
Learning Experience Design is the process of creating learning experiences that enable the learner to achieve the desired learning outcome in a human centered goal-oriented way.

Niels Floor

出典:LXD.org新しいウィンドウで開く

LXD の主要なデザインの原則は、インタラクションデザイン、ユーザーエクスペリエンスデザイン、エクスペリエンスデザイン、グラフィックデザイン、およびゲームデザインから成り立ちます。

我々は、学校の教室や企業の研修だけではなく、日々の自宅での家族との会話やオフィスでの同僚との打ち合わせ、サークル活動や仕事、読書など、さまざまな形での経験を通して学びを得ています。このような経験を効果的な学習体験として設計するのがLXDの基本となります。
一般的な段階を追った体系的な研修や演習ではなく、創造的で反復的なデザインプロセスを持ちます。

LXD は学習者中心に設計されているため、設計は学習者のニーズ、興味、動機に合わせたものになります。
基本的にはその設計は学習に関するものであり、教育、指導、トレーニングに関するインストラクショナルデザインではありません。ポイントは学習者がたどるプロセスにあります。

インストラクショナルデザインとの違い

インストラクショナルデザインと LXD は学習のアプローチが異なります。
インストラクショナルデザインは体系的な設計プロセスにそって、講師や研修担当者の視点で最適な教育効果を上げる学習プログラムの作成を目的とします。一方で LXD は学習者の経験や体験を重視し、効果的な学習体験を作成することを目的とします。そのため、学習リソースや方法は多岐にわたります。

そして LXD では学習者がどのように情報を取得、記憶し、知識を活用するかという学習体験を設計します。それは学習者の旅を計画することに似ているのではないかと思います。どちらも効果的で有効なアプローチですが、LXD はまだ比較的新しい領域として捉えられており、今後の普及が見込まれます。

余談ですが、体験学習と、LX(学習体験・経験)もまた異なるものです。
体験学習は主にリアルな実践を通して学習を行いますが、LX(学習体験・経験)は体験を通して学習するプロセスです。
この体験はオンライン研修であったり、オンデマンドビデオの視聴であったり、読書であったり、かならずしもリアルな実践をともないません。体験・経験からどのように学ぶかを重視しています。

学びは研修だけではない時代

LXD のユニークな発想 、学習者を中心に学びが設計される手法は海外でいち早く注目を浴び、SalesForce、Amazon などで学習体験を設計する LX デザイナーの採用が進んでいます。一方で日本では階層別、職種別などで従業員をグループ分けして人事が一斉に研修を割り当てる研修スタイルがまだまだ一般的であり、研修の個別化が進む海外と比較すると LXD の活用は遅れています。

しかし、メンバーシップ型からジョブ型へシフトする雇用形態の変化、企業が推進するリスキリングなど学習者を取り巻く環境の変化から教育体系の見直しの必要性が出てきている中、今後は学習体験を重視するこの研修スタイルの導入は進むと思われます。

LXDの設計とスキル

LXD が提唱する学習体験を作り出す手法は従来の教育・研修プログラムとは違うアプローチとなり、かなり創造的なプロセスです。
設計にあたってはいくつかの学習者モデルを用意して、学習者に提供されるeラーニング、オンライン集合研修、対面研修といった学びと、ネットや参考図書などからの自ら行う学びや、メンターや SNS などを活用したソーシャルな学びについて調査し、学習パターンなどの分析をもとに組み立てる必要があります。
海外では Learning Experience Designer というスキルを学ぶ講座を提供している大学も増えてきており、LX デザイナーの需要は今後も高まっていくことが予想されます。

以下いくつかの大学が発行するオープンバッジ(スキル証明)を参考までに紹介します。
各バッジをクリックするとそのバッジが証明する情報へアクセスすることができます。

さまざまな学習ツールの登場と日々のテクノロジーの進化により、Learning Experience Design(LXD)は、学習体験を軸とした効果的な研修としてより一層多く企業の研修に活用されていくことが予想されます。

ネットラーニングでは Learning Experience Design を実現するさまざまな学習要素を搭載できる多機能プラットフォームの提供を行っています。
興味のある方はぜひお問い合わせください。

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筆者プロフィール

岸田 努

株式会社ネットラーニング 代表取締役社長

外資系情報サービス業で大手企業中心に情報システムを導入。2003年ネットラーニングへ入社。eラーニング導入初期の2000年代においてeラーニング市場作りと開拓を行い、大手企業を中心にコンサルティングに携わり数々の研修を成功に導いた。2021年に代表取締役社長就任。外部団体への参画も精力的に行い、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム、一般財団法人オープンバッジネットワークの理事も務める。

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