スキルマップを活用して社員の能力を可視化する

公開日:2023/6/15(木)

筆者:岸田努(株式会社ネットラーニング 代表取締役社長)

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スキルマップとは

スキルマップは、従業員のスキル管理で利用されるもので、個人のスキルと能力を評価し特定することで組織的なスキルレベルを表すことができます。
そして個人の能力、知識、専門知識を分析し、さらに特定の役割や職務要件にマッピングすることが可能です。
スキルを体系的にマッピングすることは、組織が従業員の強みと弱みを理解しスキルギャップを特定することで、トレーニング、キャリア開発、人材管理に関して意思決定を行うのに役立ちます。
そのため、スキルマップは組織と従業員の両方にとって、成長の機会を見いだすための重要なツールです。

スキルマップ作成の目的

組織内の個人が持つスキルと能力を特定し可視化するスキルマップは、従業員の能力を正しく評価することに役立つだけでなく、不足している能力やスキルを明確にし、今後の具体的なキャリアパスの設計や教育計画の立案を図ることもできます。
またスキルマップを従業員に提示することで、自分に必要なスキルに自ら気づくことができ、リスキリングへのチャレンジやモチベーションの向上へ繋げることができます。

スキルマップ作成の目的

そしてスキルマップを作成し活用することにより以下のことが可能になります。

1. 人材管理の促進

スキルをマッピングすることで、主要なスキル分野の洗い出しや潜在的なキャリアパスの整理などができ、能力の高い従業員とその予備群の特定が可能になります。そのためより進んだ人材管理を可能にします。こうしたスキルマップを活用した人材管理は、組織が従業員を適切に計画たてて昇進、異動、育成することを可能とします。

2. 組織内で活用、また不足しているスキルについて整理

従業員が保有するスキルをスキルマップで可視化することで、組織はスキルギャップや、組織全体のスキル不足を認識でき、追加のトレーニングや採用が必要な分野を特定することができます。

3. 人材育成プログラム開発のサポート

組織のスキル不足を特定したあとは、必要なトレーニングプログラムを設計します。最適な人材育成プログラムの開発により、組織が従業員に望むコンピテンシーの習得を支援し、全体的なパフォーマンスを向上へとつなげる人材育成プログラムの開発ができるようになります。

4. 最適なコラボレーションとリソース割り当ての促進

スキルマップで誰がどのスキルを身に着けているか組織全体を可視化することは、プロジェクトに必要な特定のスキルや専門知識を持つ従業員をプロジェクトメンバーとして集めることも可能とします。適切な人材を効率的にプロジェクトへアサインすることができるようになります。

5. 従業員採用計画の強化

スキルマップの整備は戦略的な人材採用計画にも役立つばかりでなく、採用のミスマッチをも防ぎます。

以上のように、組織としてスキルマップを作成することは、組織のニーズを満たす適切なスキルを確保することに役立てることができ、従業員の可能性を最大化し、成長とイノベーションを推進するのに役立ちます。

スキルマップの作成方法と手順

スキルマップを作成するための段階的な手順は次のとおりです。

スキルマップの作成方法と手順

1.目的を定義

スキルマップを作成する目的を決定します。個人のスキルの可視化、人事評価、能力開発、人材ポートフォリオの作成、採用計画などその目的を明確にします。

2. 主要な役割(ロール)を特定

スキルマップを作成する役割またはポジションを特定します。
それらは職種・役職である場合もあれば、マーケティング、営業、システム部門 などの部署である場合もあります。最近ではデジタル人材を中心とした業務・スキルにより設定するケースもあるようです。
以下はIPAが発表したデジタルスキル標準におけるロール例を赤丸で示します。

3. コアコンピテンシーの決定

役割ごとに、必要なコアコンピテンシー(自社の核となる技術や能力)を特定します。コアコンピテンシーは、役割を効果的に遂行するために必要な核となるスキル、知識、行動です。これらは、組織の目標と価値観と一致している必要があります。

4. スキル評価の実施

従業員が保有するスキルと能力を、予め設定していた役割に対し身につけられているか評価します。一般的には、自己評価、マネージャーの評価、面接、または標準化された評価などの方法で実施します。

5.スキルズインベントリーの作成

自己申告、人事評価、または目標管理(MBO)などで収集したスキルデータを整理し、管理しやすくするために一覧表等でデータベース化(スキルズインベントリー)します。スキルズインベントリーは、企業のコアコンピテンシーや個々のスキル領域に基づいてスキルを分類することにより、チームまたは組織内の明確なスキル・アウトラインが得られます。

6. スキルギャップの特定

企業にとって必要なコアコンピテンシーと、スキルズ・インベントリーとを比較することで、スキルギャップを特定し把握することができます。これらのスキルギャップは、組織が望むコンピテンシーレベルを満たすために必要な、これから行うべき人材育成・能力開発のスキル領域を表します。組織にとって効果的な人材育成・能力開発プランを作成するには、これらのギャップを認識することが不可欠です。

7. 人材育成・能力開発のゴール設定

特定されたスキルギャップに基づいて、明確かつ実行可能な人材育成・能力開発のゴールを設定します。これらの目標は、目標設定のフレームワーク「SMART」にそった以下の5つである必要があります。

① 具体的 (Specific)
② 測定可能 (Measurable)
③ 達成可能 (Achievable)
④ 関連性がある (Relevant or Related)
⑤ 期限が定められている (Timed or Time-bound)
上記を基に組織の人材育成・能力開発の目標を設定します。

SMART

8. 学習計画の作成と実行

従業員に必要なスキルを開発するための最適な学習方法とリソースを決定します。これには、トレーニングプログラム、ワークショップ、メンタリング、ジョブローテーション、eラーニング、そして外部認定資格などがあります。最適な学習方法とリソースの提供により、従業員に必要なスキル習得のサポートをします。最近ではオンラインでの企業内大学によるデジタルスキル教育なども増えています。
※企業内大学に関するブログはこちら:オンラインで復活した企業内大学とリスキリングへの活用

9. 実施状況のモニタリング

スキル開発の進捗状況を定期的に確認し、モニタリングします。そして、継続的にフィードバック、コーチング、サポートを提供し、必要に応じて従業員一人ひとりの学習計画を調整します。

10. スキルマップの定期的な更新

スキル要件と組織のニーズは時間の経過とともに変化します。スキルマップを定期的に更新、もしくは刷新し、進化または変化するスキルの状況や市場のニーズを反映します。また、定期的にスキルマップの運用状況の評価を実施し、新たなスキルギャップが存在するかを確認しコアコンピテンシーを維持します。

スキルマップは、変化する組織戦略のニーズに適応することが求められる動的なツールです。
スキルを継続的に評価して開発することで、パフォーマンスを向上させ、成長を促進し、今日の急速に進化する市場で競争力を維持することができます。
富士通株式会社では、IPAからもITSSの導入事例として取り上げられた20年近い歴史のあるFCP制度を廃止しました。DX時代の中で富士通が向かう方向と異なってきたため、その役目を終えたとのこと。このようにスキルマップは組織戦略の変化により動的に変更、または刷新されていきます。
※参考:ジョブ型人事制度とスキル可視化で育成は新時代へ。 富士通が従来の社内資格制度をやめた理由新しいウィンドウで開く

スキル管理の雛形

スキルマップをExcelなどで作成する際のシンプルなテンプレートは以下のようになります。
組織的には従業員の役割が異なるのが一般的ですので、部署や職種ごとに必要なスキルを洗い出して作成することになります。

スキル管理の雛形

第四次産業革命に向け、今後一層多くの組織にてデジタル人材のスキル強化や変革が必要です。
効果的にデジタル人材育成を行っていくためには、ロールモデルとなるキャリアパスや、その過程で身に付けるべきスキルが明確になっていなければなりません。
IPAが発表したデジタルスキル標準新しいウィンドウで開くでは、そうした動きに対応したロールとスキルマップを盛り込んでいます。 今後は各組織の戦略に沿った従業員のコアコンピテンシーとなるスキル管理と、DX時代におけるデジタル人材のスキル管理の両方が必要とされるでしょう。

スキルマップに使えるオープンバッジ

オープンバッジは国際技術標準規格にそって発行しているデジタル証明/認証で、スキル・成果・学習の可視化を実現します。
オープンバッジは広くインターネットを介して公開することが可能で、公開されたオープンバッジを通して、取得したスキルの内容証明ができます。オープンバッジは、メールの署名に貼り付けたり、タレントマネジメントシステムへ登録したり、SNSなどで共有したりすることができます。 さらにブロックチェーン型のオープンバッジは、偽造・改ざんが困難であるため信頼のおける学習・資格証明書として、企業の採用やスキルマップ、さらにはスキルマッチングなどでの活用がなされ、個人が身につけたスキルや知識へ新たな価値をもたらしています。

オープンバッジ

オープンバッジは組織内のスキルマッピングに活用できます。オープンバッジは主に、企業や教育機関、研修団体などの組織によって発行されます。オープンバッジをスキルマッピングに使用する方法は次のとおりです。

1. バッジの作成

組織は、マッピングしたい特定のスキルやコンピテンシーを表すバッジを作成できます。これらのバッジには、獲得に必要な基準とエビデンスを含めることが可能です。

2. スキルの評価

組織内の従業員は保有するスキルを証明するか、またはスキルに関連するトレーニング プログラムを完了することでバッジを獲得できます。これらの評価は、試験、プロジェクトへの参加、学習などの手段を通じて実施できます。

3. バッジコレクション

従業員がバッジを獲得すると、タレントマネジメントシステムなどを通してバッジを収集しデジタルバッジポートフォリオなどに表示します。これにより、従業員一人ひとりのスキルと成果が可視化され、スキルマップの基礎が形成されます。

4. スキルギャップの特定

オープンバッジを使用したスキルマッピングは、組織内のスキルギャップを特定するのに役立ちます。組織戦略に必要なスキルやコンピテンシーと従業員が獲得したバッジを比較することで、追加が必要と思われるトレーニングや新たな人材獲得が必要な分野を特定できます。

5. スキル開発

オープンバッジを通じて作成されたスキルマップは、組織内のトレーニングや従業員に必要な学習などの情報を提供します。組織は、対象を絞ったトレーニングプログラムを設計したり、特定されたスキルギャップに基づいて特定の学習コンテンツ(リスキリングなど)を推奨したりできます。

オープンバッジをスキルマッピングに活用することで、組織は従業員全体の可視化を強化できます。自律的な学習の文化を促進し、人材の管理とスキル開発に必要な情報を提供します。

なお、世界的に普及しているITスキル標準のSFIA(Skills Framework for the Information Age)新しいウィンドウで開くではデジタル世界を動かすデータとテクノロジーを設計、開発、実装、管理、保護する専門家が必要とするスキルとコンピテンシーを定義しています。SFIAはデジタル世界向けのグローバルスキルおよびコンピテンシーフレームワークです。

SFIA
引用:SFIA8発表スライド

この世界的なITスキル標準のSFIAでもスキルと能力開発のためのツールとしてオープンバッジの活用が進んでいます。
SFIAデジタルバッジスキームでは主に以下の3点についてバッジを発行しています。
①SFIAトレーニングコースの修了者にバッジ発行
②SFIA認定プラクティショナー、コンサルタント、評価者にバッジ発行
③特定のSFIAスキルまたは責任保有レベルに対して個人にバッジ発行

現在SFIA財団からはさまざまなカテゴリ、レベルを含んだ502種類のオープンバッジが発行され組織のスキル開発プログラムをサポートし、従業員のスキルの可視化を実現しています。

まとめ

今日のVUCA時代において、組織内でスキルマップの位置づけが以前よりかなり動的に変化していることを感じています。伊藤レポートで指摘された、企業におけるビジネスモデル、経営戦略と連動した人材戦略には「動的な人材ポートフォリオの作成」が要素として盛り込まれています。これを支えるツールのひとつがスキルマップであり、組織はそのスキルマップの整理とスキル管理を行うことが今後一層求められるでしょう。
またリスキリングや学び直しが進む中で、特に必要なスキルとしてデジタルスキルに焦点が当てられています。
そうしたスキル管理においてもスキルマップの活用やオープンバッジなどのツールはより有効です。 また、これからの時代には各専門分野や職種ごとにスキルを整理したスキルフレームワークの活用も一層進むことが予想されます。海外では共通で使用できるスキルフレームワークプラットフォーム(Open Skill Framework)の構築が進んでいます。日本でもジョブ型雇用が進み人材の流動化が加速する中、スキルマッピングは共通のスキルフレームワーク・プラットフォーム上で、組織を超えてスキルベースでジョブと人がより適切に繋がっていく時代が日本でも訪れるでしょう。

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筆者プロフィール

岸田 努

株式会社ネットラーニング 代表取締役社長

外資系情報サービス業で大手企業中心に情報システムを導入。2003年ネットラーニングへ入社。eラーニング導入初期の2000年代においてeラーニング市場作りと開拓を行い、大手企業を中心にコンサルティングに携わり数々の研修を成功に導いた。2021年に代表取締役社長就任。外部団体への参画も精力的に行い、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会、特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム、一般財団法人オープンバッジネットワークの理事も務める。

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