公開日:2023/6/27(火)
多くの組織でジョブ型雇用が進む中、事業推進で重要となる従業員のスキルマップの作成と活用が進んでいます。
スキルマップは従業員のスキルと成長を可視化し、必要とされる育成計画に役立ちます。
その中で、ITスキルのような専門スキルがある業種では、汎用的な共通のスキルがあるため、これら共通のスキルを整理する、共通のキャリアフレームワーク(スキルフレームワーク)というものが存在します。
日本ではITスキル標準のキャリアフレームワーク(スキルフレームワーク)などが有名です。
海外ではスキルフレームワークという言葉が標準的に使用されているため、本ブログではキャリアも含めて「スキルフレームワーク」と記載します。
スキルフレームワークは、スキル主導型の労働市場において職種と専門分野ごとにスキルレベルの範囲を示したマトリクスから構成されます。
各職種の概要やスキルレベルの詳細が明示されるため、スキル人材にとっては、自身のスキルレベルの把握やキャリアを設定するための羅針盤にもなります。
近年、海外では新しいスキルエコシステムとして「オープンスキルフレームワーク」の構築に産学官が連携して取り組んでいます。
オープンスキルフレームワークの最大の特長は、スキルフレームワークが世界に公開・共有されることを前提としたプラットフォームであることです。
多くの組織において、サイロ化、つまり組織内でのみスキルデータが管理され、他組織などとは共有されず、公開されていないという点は、ジョブ型雇用が一般的な海外において課題となっています。
また共通スキームでの標準化がされておらず、多くの組織においてスキルデータを整理したスキルフレームワーク構築そのものが、断片化されたスキルデータを繋ぎ合わせる非常に手間のかかる取り組みでした。
こうした中、必然的に求められたのが、オープンで誰もがアクセス可能なプラットフォームの構築です。
オープンスキルフレームワークなら、標準化されたデータに変換されたスキルを、ネットワークを通した職務記述書(スキルデータ)で共有し、相互運用することが可能になります。
オープンスキルフレームワークにより、スキル人材(もしくは候補者)が目指すべきスキルベースの学習と、それに適したキャリアにマッチングさせることで、スキル主導型の労働市場をより公平にすることができ、適切に個人と企業をつなぐことができるようになります。これにより、経済全体が活性化します。
Open Skill Network(OSN)という団体がスキルエコシステムの構築に向けて活発な研究と推進を行っています。
OSNでは具体的な活動で以下の3つを実現しています。
上段にでてくるRSD(Rich Skill Descriptor)は、スキルデータ(スキル記述書)を構造化し、スキル共通の定義を作り、必要な資格やスキル情報をメタデータ化し公開と相互運用を可能にする強力なパッケージで発行される、ユニークなURLを保有します。
RSDメタデータには、スキルステートメント、スキルキーワード、労働市場データ、職業データ、資格などが含まれます。
これらメタデータは、JSONファイルで生成され、人間にも、コンピュータも容易に読み込むことができ、共有・検索することが可能です。
通常、RSDには主に以下の項目が含まれます。
ID | RSDを識別するユニークなURL |
---|---|
スキル名 | スキルの名前またはラベル |
スキルステートメント | スキルの説明 |
キーワード | 検索性を高めるためのキーワード文字列のリスト |
カテゴリ | 定義されたスキルのカテゴリ |
作成者 | 個人、または組織 |
職業 | 職業タイプ |
RSDは、採用、人材管理、教育評価などのさまざまな状況で活用できます。
RSDは個人のスキルを評価および比較するための標準化された新しい方法であり、より適切なスキルベースの人材に関わるさまざまな判断をデジタルに置き換え効率化します。
ためしに、openRSDというプラットフォームでRSDを作成し、公開してみました。スキルは「eラーニングコース制作・編集」を英語に翻訳して登録しました。
JSONファイルが生成され、互換性のあるプラットフォーム上でデータのやり取りを行えます。
openRSDは、豊富なRSDとコレクションを作成・保存・共有するためのスペースとして、2022年にEdalex社からリリースされ、RSDライブラリが世界に公開されています。openRSDを使用して、誰でもオリジナルのRSDライブラリを実装し、管理と共有ができます。
今回はopenRSDでRSDを作成し公開しましたが、その他にはOpen Skills Management Tool(OSMT)というオープンソースのプラットフォームを使ってRSDの作成、管理、公開などを行うことも可能なようです。
現在ではLightcast社のように30,000を超えるスキルを収録したスキルライブラリを無料公開している組織もあります。
こちらのスキルライブラリでは、何億もの求人情報、履歴書、オンラインプロフィールから収集したスキルを自由に、APIで繋げることで参照できます。
こうしたオープンスキルライブラリは今後、さまざまなスキルデータをもとにした雇用、研修プログラム開発、スキルのグループ化、組織のスキル分析など、多様な目的で活用が見込まれます。
参考までに、WGU(Western Governors University)が公開しているスキルライブラリのコレクション画像をご紹介します。
各組織において、業種別の職種で必要とされるスキルを整理するのにも役立てることが可能です。
こうしたスキルエコシステムのRSD(リッチスキル記述子)とオープンスキルライブラリの活用に深くリンクするのが、スキルを可視化するオープンバッジです。
オープンバッジにはRSDに記載されるスキルの証明にも利用することが可能です。
今後さまざまな組織によるスキルマップ、スキルフレームワークの作成と利用において、RSDとオープンバッジ、スキルライブラリは密接にリンクしていくことが予想されます。
さまざまなスキルデジタル技術標準が世界的に推進される中、あらゆるスキルプラットフォームで相互運用性を実現する【未来のスキルエコシステム】は本格的な利用が始まっています。
これまで組織で分断されたスキルフレームワークやスキルマップ、スキルライブラリ、そしてスキル記述書などが新しいデジタル技術標準のもと作られ、スキルエコシステムは広く利活用することが可能になりました。
そうした世界の動向を踏まえながら日本においてもさまざまな組織でスキルエコシステムの利活用の検討と導入が進むと、また一歩進んだ組織的なスキル人材の育成、獲得、管理が実現するのではないでしょうか。