公開日:2024/02/14(水)
デジタルトランスフォーメーションが多くの企業にとって命題となり取組みが進む中、DXで成功、または復活した企業のさまざまなな事例は、どれをとっても大変革新的でとても参考になります。筆者が好きな事例としては、Netflixが無店舗にてオンラインでDVDレンタルを始めた革新的なビジネスモデルや、テスラのオンライン販売のみの販売形態や完全受注生産、さらに広告ゼロなど、これまでの常識を覆した新しいビジネスの形です。このような変革には、例えが稚拙かもしれませんが、車がロボットに変形するアニメの「トランスフォーマー」を子供のころに見たときのあの興奮を覚えます。
あまり事例としてはあげられることはないのですが、ビットコインもデジタルトランスフォーメーションのさきがけのひとつではないかと個人的には感じています。ビットコインは国、中央銀行などの管理者などから発行される一般的な紙幣とは異なり、非中央集権的な分散型のデジタル通貨としての価値を持ちます。そのビットコインをささえるプラットフォームとして発明された“ブロックチェーン”はデータの改ざんが非常に困難であり、現在多くのDXを実現するためのプラットフォームとして活用が進んでいます。このビットコインは2008年に「サトシ・ナカモト」という謎の人物によって発明されており、いまだその正体は不明のままです。おそらく日本人では“ない”というのが定説ですが、日本人の名前でこのような発明が発表されたことに、日本でも、よりこうした革新的なトランスフォーメーションがあらたに発明されないかと夢が膨らみます。
近年のデジタル技術の急速な進歩によって、国という垣根を超えた企業間競争はさらに激しさを増し、市場での優位性を保つためにDX推進を図る企業が増えています。DX推進のために最先端のデジタル技術を使い「企業にあらたな価値をもたらす」にはデジタル人材の活用が欠かせません。デジタル人材はDXの推進を担いますが、DX推進に必要なスキルは大きく分けると「データサイエンス」「エンジニアリング」といった技術系スキルと、「ビジネス・サービス設計」「組織・プロジェクト管理」のビジネス系スキルの2つあります。このような専門性の高いデジタル人材の確保は難しいため、採用に頼るのではなく自社で時間かけてデジタル人材を育成していく企業も増えています。現在多くの企業の中期計画では、自社のデジタル人材育成を掲げており、体系的な教育を実施している企業が増えています。
「デジタル人材=IT人材」と混同されがちですが、異なる業務を担当します。デジタル人材は、AIやIoT、データ分析とその活用など、最新技術やスキルを活用して企業に新たな事業を生み出すような価値を提供します。一方、IT人材はIT(情報技術)の活用、システム導入とその運用などを担当します。それぞれに求められるスキルは異なるのです。
たとえば、デジタル人材では新しい技術(AI、ビッグデータ、IoT、アジャイル、セキュリティ)など)全般を学ぶことができるITパスポートの資格、AI・機械学習などの日本ディープラーニング協会が提供するG検定、データサイエンティスト向けのデータサイエンティスト協会が提供するDS検定など、スキルを証明するこれらの資格が有名です。
一方IT人材では、IT技術者としての適正・能力を証明する国家資格の基本情報技術者試験があります。その他に、シスコシステムズ社が提供するCCNAや、日本オラクル社が提供するオラクルマスター、グーグル社が提供するGoogle Cloud 認定資格の資格など、ITベンダーが提供する資格が有名です。このように取得しておきたい資格を比較しても、デジタル人材とIT人材の違いがわかります。
2022年12月に経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が「デジタルスキル標準(DSS)」を策定・公表しました。DXに関して全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルを定義した「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割(ロール)や習得すべきスキルを定義した「DX推進スキル標準」で構成され、最近では生成AIの登場や進化によって、DXに関わるビジネスパーソンに求められるスキルが変化していることを踏まえて、2023年8月に改訂版(ver.1.1)を出しています。
DXリテラシー標準では、ビジネスパーソン一人ひとりがDXに関するリテラシーを獲得することで、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになることを狙いとして、身につけるべきスキルの指針を以下の図のように示しています。また近年の生成AIの急速な普及により、このDXリテラシー標準においても生成AI利用における内容が追加されました。(2023年8月改訂)
DX推進スキル標準ではDXを推進する人材の学習項目例となる、5つのDX推進人材を示し、さらに15のロールに細分化して、求められる知識やスキルの明文化をしています。役割を詳細に示して、修得すべきスキルを明確に示しています。例えば、データサイエンティストは、「データエンジニア」「データサイエンティスプロフェッショナル」「データストラテジスト」に分類され、データエンジニアには、データ活用基盤設計やデータ活用基盤実装・運用のスキルが必要とされています。また業務別に詳細な区分をすることで、各社に必要なスキルを持つ人材をひとつの指標として確認することができます。
近年、国家資格の「ITパスポート試験」を活用したデジタル人材育成が急速に広がっています。現在応募者の8割が社会人と言われており、多数の企業で全社員のIT基礎力向上に活用されています。ITパスポート試験はCBTによる2時間の試験で、首都圏では多くの会場でほぼ毎日2回~3回開催されており、受験のハードルもさほど高くはありません。
ITパスポート試験は経営戦略、マーケティング、経営全般に関する知識から、セキュリティ、ネットワークなどのITの知識、プロジェクトマネジメントの知識など幅広い分野の総合的知識を問う試験です。これらの知識を身につけることで社員一人ひとりのIT力が向上し、さまざまな効果を期待できます。またITパスポート試験の取得をリスキリングの足がかりとして利用し、当資格を取得した社員から、新たなビジネスのアイデアや創造・価値が生まれ、企業の活性化へつなげるという効果も期待できると思います。近年にみられる受験者の増加傾向は、DX推進実施の中でデジタル人材育成の一環として、ITパスポート試験の取得を利用する企業が、業種問わず増えているという表れです。
DXを推進するプロフェッショナル人材に必要な基本的スキルを証明するものとして、2024年1月31日に「DX推進パスポート」が発表されました。DX推進パスポートはデジタルリテラシー協議会が管理、発行、運営しています。デジタルリテラシー協議会は、官民連携の会議体であり、3つの参加団体(独立行政法人情報処理推進機構、一般社団法人日本ディープラーニング協会、一般社団法人データサイエンティスト協会)に加え、オブザーバーとして経済産業省が参加しています。
DX推進パスポート取得者は、DX推進人材として、DX推進を行う職場において、チームの一員として作業を担当する人、そしてDXを推進するプロフェッショナル人材となるために必要な基本的スキルを有する人として定義されます。 DX推進パスポートは「ITパスポート試験」、「DS検定 リテラシーレベル」、「G検定」の3試験の合格数に応じて、そのスキルの可視化を行うオープンバッジを発行します。3試験のうちいずれか1種類の合格者には「DX推進パスポート1」、いずれか2種類に合格すると「DX推進パスポート2」、3つ全てに合格すると「DX推進パスポート3」のオープンバッジが発行されます。
スキルや仕事の成果、実務経験、学習を評価され、認められることは、常に強く自分を動かす原動力となるものです。こうした評価や目に見える形での表彰などは自信を高め、さらには自らが学びスキルを身につけていこうとする自律的な学びへ繋がる非常に強力な動機づけとなり得ます。こうしたスキル・成果・学習歴の可視化をデジタルに実現したのが、DX推進パスポートなどでも利用されているオープンバッジです。
オープンバッジは国際技術標準規格にそって発行しているデジタル証明/認証で、スキル・成果・学習の可視化を実現します。オープンバッジは広くインターネットを介して公開することが可能です。メールの署名に貼り付けたり、タレントマネジメントシステムへ登録したり、SNSなどで共有したりすることができます。
公開されたオープンバッジは、その取得した内容を証明することや第3者によって検証することもできます。そしてブロックチェーン型のオープンバッジは、偽造・改ざんが困難であるため信頼のおける学習・資格証明書として、企業の採用やスキルマップ、さらにはスキルマッチングなどでの活用がなされ、個人のスキルや知識へ新たな価値をもたらしています。
オープンバッジは、社員のリスキリング・学び直し、そしてDXを推進するデジタル人材育成など、さまざまな場面で活用可能な革新的ソリューションです。
そして今後も新しい職種やスキル、キャリアパスが登場するなか、個人のスキルを「可視化」することの重要性は、今後さらに増していくことでしょう。
参考までに私が保有するオープンバッジをご案内します。
筆者は米国の美大卒業後、1996年に帰国しました。当時は就職氷河期の真っ最中で、美術を専攻していたことと、海外留学生はすぐに転職するなど一般の学生と比べて評価が低かったこともあり50社以上の面接を受け、苦労してやっと受かった1社がIT業界の新興企業でした。わたしを受け入れてくれた(拾ってくれた)企業はIBM出身の社長率いるシステムインテグレーターで、1990年代後半のインターネットの普及の勢いもあり、そこで多くのIT技術とデジタルリテラシーの基礎を身につけることができ、それが今もわたしの礎になっています。
一方で、当時そうした知識は一部の人間が持つものとされ、穿った見方をすると多くの組織の中で横文字ばかり使う言葉が通じない人間として疎まれていた面もあったように感じます。英語ではGEEKなどと呼称されました。そして時は流れ今では誰もがデジタルと最新テクノロジーの知識の修得・活用を求められ、新しいものを組織的に全員で生み出していく時代になりました。引き続きデジタル人材の育成が国をあげての最重要課題にあげられている中、これからも多くの組織でデジタル人材育成が進む中で第二の「サトシ・ナカモト」のようなDXを起こす人材がまた登場するのではないかとGEEKなわたしは密かにワクワクしています。そしてその育成に微力ながら尽力し日本、そして世界がより良い社会になっていくことを願っています。